彼女は高額を使う“太客”だ。ホストたちは、彼女の連れである私もそれなりにもてなそうとして、「お休みの日は何しているんですか?」なんて聞くけれど、髪の毛を立てた若者にどう答えるよ。「カンパーイ! よろしくぅ」とグラスを持ち上げられてもさぁ。笑っちゃうのはホストが差し出した名刺の肩書が「常務取締役」とか「専務」とか、彼らの風貌とはかけ離れているんだよね(この伝統は昔から変わらない)。
それからまた月日が流れて、この夏のこと。YouTubeでは「トー横キッズ」「立ちんぼ」と真新しいワードが溢れていたので気になって歌舞伎町散策をしたら、まあ、驚いたのなんの。飲食店のビルというビルにホストの看板がかかっていて、歌舞伎町はホストクラブのテーマパークになっていたの。
トー横キッズといわれる広場に寝転んでいる集団には驚かなかったけれど、ホストクラブの数には背筋が凍った。だってこれだけの店を支えている女性客がいるということだよ。数万円の飲み代を払う客なんか客のうちに入らない。店で一目置かれ、推しのホストに姫扱いしてもらえるのは、ウン十万のシャンパンを開け、100万円のワインの栓を抜かせた“太客”だけよ。好景気でもないのに女たちは何やって稼いでいる……なんて聞くまでもないよ。
てかさ。その太客になったらなったで、ホストはお金の話ばっかよ。「その代わりに恋心をもらう」と言っていた女性がいたけれど、恋心? 聞こえはいいけど、身銭を切ると男も女もない。言っていられなくなるんだよね。
実は私、50代半ばのときに一目惚れした年下の男がいて、彼の喜ぶ顔が見たくてブランドもののキーホルダーをプレゼントしたことがある。渡してから気づいたんだけど、「彼の喜ぶ顔が見たくて」というのは半分本当だけど、半分ウソ。「今夜はありがとう。じゃあね〜」とピラピラ手を振って終電に向かう彼に「話が違う!!」と首根っこをむんずと掴みたくなったっけ。女性客がホストに“枕”をねだりたくなる気持ちをその年で初めて理解した。相手を人として好きならそんな手っ取り早い対価は求めないよ。
いずれにしても、無理に無理を重ねてつくったお金が尽きてもホストクラブに通い詰めて、「売掛金」を背負わされた女性客が、売春をさせられたり風俗店で働かされたりしているのが現実。「悪質ホストクラブ」の規制をする議論が国会で始まったのは、本当によかったと思う。
【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。
※女性セブン2024年1月1日号