私たちの心を熱く震わせてくれた

私たちの心を熱く震わせてくれた

アドリブで布団を剥ぐと

升:笠置シヅ子という多くの方が知っているヒロインは、選ぶほうも、演じるほうも難しい。見事なキャスティングだったし、その期待以上に応えている趣里ちゃんは笠置シヅ子を超えたんやな、という妙な納得感まであります。笠置さんのエネルギーだったり歌唱だったり、現代に笠置シヅ子がいたらこうなっているだろうなって気がします。

翼:華奢な身体からどうやったらあんなエネルギーが出るんやろって、間近で過ごして感じました。お芝居も全身で表現されて、スイッチが入った瞬間に現場の空気を全部持っていきはる感じでした。カットがかかったらコロコロと笑ってその場を明るくされる。素晴らしい座長さんです。

伊原:現場でも、趣里さんを想定して脚本を書いたのかな、と思うくらいスズ子のままの趣里さんがいて。秋山は東京編でもスズ子と2人でいるシーンが多かったですが、その明るさに助けられました。趣里さんはちょっとした仕草や、発言に対するリアクションの一つでも、「確かにスズ子っぽい」ということを散りばめられていて、見れば見るほどスズ子の魅力が一段上がっていくんです。

翼:わかります!

伊原:だからこそ、15分という朝の短い時間でもスズ子の魅力がわかりやすく伝わるのだなと。

 スタッフさん一同も、毎日スズ子を見ているはずなのに、画面に向かって「あぁ、かわいい」ってモニターを撫でるんですよ(笑)。もう皆、メロメロです。

升:(劇中の)ストライキ騒動の時、スズ子が「何やさっきから聞いとったらコラー!」と啖呵を切って社長室に怒鳴り込むシーンがあったでしょう。趣里ちゃんは120%振り切った「コラー!」できたから、これは負けてられないと「ワシもやったろう」と振り切って演じてみたら、知り合いからバンバン電話がかかってきて、「あれじゃヤクザみたいや」って(笑)。

伊原:(爆笑)

翼:私は東京の下宿で、スズ子と秋山が寝られへんからやりましょうと「せっせっせ」をするシーンがめっちゃ好き。秋山が大阪に帰る前夜に「せっせっせ」をしましょうと布団を剥いだらスズ子が「いやぁ」って両手を挙げたポーズもかわいかった。

伊原:あれはもう趣里さんが(笑)。「せっせっせ」のシーンは一発勝負みたいな感じで何も決まっていないんです。あの時は趣里さんが動かなかったから、布団を剥いじゃえとアドリブでやってみたら、「いやぁ」って。かわいかったから、オンエアでも使ってもらえると思っていました。

第3回へ続く第1回から読む

【プロフィール】
升毅(ます・たけし)/1955年生まれ、東京都出身。1985年に演劇ユニット「賣名行為」を結成。1991~2002年は劇団「MOTHER」を主宰。主な出演作にドラマ『沙粧妙子-最後の事件-』『高嶺の花』など。『風のハルカ』『あさが来た』などNHK朝ドラにも多数出演。

翼和希(つばさ・かずき)/大阪府出身。2013年、OSK日本歌劇団入団。男役。主演作『へぼ侍』(脚本・演出、戸部和久)が2024年1月に大阪、2月に東京で再演が決まった。2024年2月21、22日には『翼和希コンサートin浅草』が開催予定。

伊原六花(いはら・りっか)/1999年生まれ、大阪府出身。2018年にTBS『チア☆ダン』にて女優デビュー。NHK朝ドラ『なつぞら』などに出演。主演作のディズニープラスオリジナルドラマ『シコふんじゃった!』が配信中。

撮影/藤岡雅樹

※週刊ポスト2024年1月1・5日号

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