「忘年会続きで絶対に肝臓の数値が悪くなってるよ」
「お正月太りでメタボ健診に引っかからないようにしなくちゃ」
「2024年はそろそろバリウムをのまないと」
年を重ねるごとに友人や親戚など人と集まれば、花が咲くのは健康の話。特に健康診断の結果については、まるで自慢話のように数値の悪さに言及する人もいれば、どこも悪くないと胸を張る人、深刻に考えて通院し始めたことを報告する人などさまざま。しかし、その結果に一喜一憂しても意味がないとしたら──。
「日本の健康診断は、新しい方法にアップデートされないまま今日に至っています」
そう話すのは、米ニューヨーク在住で米国老年医学・内科専門医の山田悠史さんだ。
「米国では日本のように全員が同じ検査を受けることはありません。年齢や性別によってかかりやすい病気が変化するため、科学的なエビデンスを踏まえて年齢などに応じて違った検査項目が推奨され、その内容は随時見直されています。
一方、日本の健康診断では戦後に全国一律で始まった内容がほぼ変わらず現在も引き継がれている。生活習慣病のように近年新たに加わった検査もあるものの、医学の進歩に伴う修正と変更がほとんど行われないまま、根拠のない検査が残っているのです」
つまり、体の異常を見つけ出し、健康を保つためせっせと健康診断を受けるその労力や時間は無駄になっている可能性があるということ。検査に潜む“ウソ”を見抜き、情報をアップデートしていこう。
医学は進歩したが信頼できない
多くの人が健康診断に期待するのは、健康の維持と病気の早期発見だろう。しかし医療に詳しいジャーナリストの村上和巳さんは「いかなる検査にも落とし穴や無駄が存在する」と指摘する。
「健康診断や検診など、現在主に実施されている“検査”は自治体が公費で実施する『対策型』と、個人が自主的に受ける民間の『任意型』の2つに分けられます。対策型の特定健診やがん検診は無料だったり一部自己負担で受けられます。
公費が使われるのでエビデンスがある検査ですが、検査項目が少ないという欠点がある。一方、人間ドックなど任意型はさまざまな種類がありますが、必要性の低い項目もありその分費用もかかる。受けたからといって、死亡率が下がるというエビデンスがない検査も多く見られます」
エビデンスがないどころか、受けることによってデメリットが生じる検査もある。ナビタスクリニック川崎院長で内科医の谷本哲也さんが「むやみに受けない方がいい検査」として、いちばんに指摘するのは「脳ドック」。
「脳梗塞など脳疾患の発症リスクを早期に見つけるために、脳のMRI検査や血液検査などを組み合わせて行う検査ですが、治療が必要なレベルの脳動脈狭窄や脳動脈瘤が見つかるケースは非常に少ない。
そもそも、脳梗塞などの病気の発症予防に対して、脳のMRI検査が有効だとするエビデンスはほとんどありません。むしろ、治療の必要がない小さな異常が見つかった場合は、経過観察で定期的に検査を受けることになり、費用がかかるうえ精神的に不安な気持ちにもなる。デメリットがあまりにも多いのです」
念のために行った検査で取り返しのつかない事態が起きることもある。村上さんが懸念するのは、出生前診断の「羊水検査」のリスクだ。
「羊水に含まれている胎児の細胞を調べて、染色体異常がないかどうかを産前に調べる検査ですが、先天異常が見つかる確率は1%未満とあまりにも低い。しかも羊水を採取する際に流産が起きる可能性があり、20〜30代なら異常が見つかる確率よりも流産のリスクの方が高いのです。肉親に先天異常の人がいるなど特別な事情がある以外は、必要性は高くありません」