日本の「ものづくり」が称揚されるようになった一方で、2010年頃から、日本式のものつくりは既に世界で敗れたのだという主張も現れ始めていた。実際、世界を席巻していた白物家電の世界で日本メーカーの存在感は小さくなっていった。それでも、自動車産業なら日本はまだ「ものづくり」のトップランナーで、安心安全、信頼できるものだと思われてきた。人々の生活と社会の変化を記録する作家の日野百草氏が、大規模不正問題による全車種出荷停止となったダイハツユーザーたちの混乱と困惑をレポートする。
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「ダイハツ(ディーラー)から電話がありました。納車か、キャンセルかを選んでくださいと。いま乗っている車(同じくダイハツ)の車検が近いから買いましたし、急に他社に替えるのも難しいですから、どうしようかと」
都内、知人のダイハツユーザーの女性(50代)が電話で語る。声でもわかるほどに「どうしたらよいでしょう」と本当に困惑しきっている。都内といってもいろいろ、彼女の住まいは駅も遠く坂の多い住宅街、同居の高齢者も子どももいる。生活のため、生きるために車がある。
12月20日、この国の軽自動車市場で3割以上のシェアを占めるダイハツ工業(以下、ダイハツ)は国内外すべての車種の出荷を原則、停止すると発表した。また池田市の本社工場含め、国内4工場すべての稼働も停止する。年の瀬、日本にとって大変な激震となった。
ダイハツなんてあちこち走っている
車両の衝突試験に不正を繰り返したダイハツは1989年から不正を開始、2014年以降はとくに不正の数を増やし続けたという。現状の発表だけでも国内外64車種の試験における不正、元々は4月28日に公表した一部車種の不正、側面衝突試験の認証不正に端を発しているが、ついに全車種出荷停止に追い込まれた。
ダイハツを調査している第三者委員会の報告書によれば新たな不正だけでも174件(!)、例としてエアバック、ボディ各部、シート荷重、ドアの開放防止、シートベルト、車外騒音、ヘッドランプ、速度計、排出ガス、燃費、車載出力認証、各種センサー関連(12月20日時点)が挙げられ、それらについて「ねつ造」「自己中心的」「自分や自工程さえよければよく、他人がどうであっても構わない」(ダイハツ工業株式会社第三者委員会「調査報告書」より)と、ダイハツの社風も含め、厳しく断罪されても仕方のない不正とその姿勢の数々が明るみとなってしまった。