『料理の鉄人』(1993〜1999年、フジテレビ系)の中華の鉄人として知られ、四川飯店グループのオーナーシェフを生涯務めた陳建一さんが、間質性肺炎のために2023年3月11日、この世を去った。
「彼は一度肺がんを患っているから、ずいぶん気をつけていたし、検診も受けていたんだけど……それにしても早いよ。まだ67才だよ」と嘆くのは、2代目フレンチの鉄人として、同番組で共演した、『ラ・ロシェル』オーナーシェフの坂井宏行さんだ。
「妙にウマが合うんだね。2人ともゴルフ好きっていうこともあったし。陳さんは年に240回もゴルフをやっていたんだよ。ぼくも多いと思っていたけど、せいぜい50回。それだけラウンドしているだけに、ゴルフはうまかったよ。
ぼくに“2代目フレンチの鉄人”の依頼があったのは、懐石料理を勉強していてどんな食材にも対応できると思われたから。まずは半年と言われて引き受けたんだけど、それが半年また半年と更新されて、とうとう6年半も続いてしまった。対決は大変だったけど、フレンチと中華や和食とは食材に対するアプローチが違うので勉強になるし、料理の幅が広がって楽しかった」(坂井さん・以下同)
陳さんと一緒にイベントに出席することも多かった。
「料理を実演しながら披露するとき、お互いの料理を手伝うんだけど、陳さんは麻婆豆腐が人気でね。おいしく仕上げるコツは、最後に混ぜるとき『必ず小指を立てること』って言うんだよ。ぼくがアシスタントとして麻婆豆腐を作っていると『ムッシュ(坂井さん)、小指! 小指を立てて!』って陳さんが横から突っ込んで(笑い)。お客さんに大ウケ。
サービス精神旺盛で、しゃべりだすと止まらない。その話がまた面白くてね。料理はもちろん、話術でもお客さんを楽しませることを忘れなかったね」
毎年、中国へのゴルフ旅行に一緒に出かけていたという。
「15年くらい続いたんだけど、毎回おいしい料理とセットでね。陳さんは中国語が話せるからどの店へ行っても、厨房の奥まで入って食材や調味料をチェックしたり、シェフたちとの会話を楽しんでいましたね。それに、陳さんはどこに行っても楽しそうに料理を食べていました」
そんな陳さんがよく言っていたのは、日本に初めて四川料理を紹介した父・陳建民さん(享年70)の次の言葉だ。
「『料理は愛情に加え、味の好みは人それぞれ違うから、とにかくお客さんに楽しんで食べてもらうことがいちばん』ということ。そして『自分も楽しんで食べなきゃだめ』ということもよく言っていた。陳さんはいつもあの人懐っこい笑顔でお父さんの教えを実践していたんだね」