年末年始に観る国民的映画といえば『男はつらいよ』シリーズだろう。同シリーズは渥美清さんが演じる車寅次郎、「フーテンの寅」さんが、毎回、出会った女性に恋しては失恋するのがお約束だった。寅さんが恋する女性「マドンナ」には多くの魅力的なキャストが出演している。『男はつらいよ』シリーズの大ファンであるタレントで俳優の山口良一に、最も印象的なマドンナについて聞くと、第10作『寅次郎夢枕』(1972年)に登場した再会した幼なじみの千代(八千草薫)だという。同作品とマドンナ・千代の魅力について、山口が語った。
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それまで映画を観てこなかった私に、映画の楽しさを教えてくれたのが寅さんでした。1974年に上京して少し経った頃、初めて観た映画が『男はつらいよ』でした。
『男はつらいよ』は、寅さんに好きな人ができて、でも結局振られるというのが定番のパターンです。私も中学、高校と好きな女の子に告白しては玉砕してばかりでしたから、最初に作品を観た時からこれ以上ないほど寅さんに共感したわけです(笑)。「そこを頑張れば寅さんの恋は成就するかもしれないのに」と心の中で声援を送りつつ、自分に重ね合わせながら夢中で観ていました。
ところが第10作『寅次郎夢枕』で八千草薫さんの演じた千代さんは、シリーズでは珍しく寅さんとの結婚を真剣に考えたわけです。振られてばかりいる寅さんが、へたり込んで驚いた表情は見ものです(笑)。寅さんの話を、欄干を指でなぞりながらプロポーズと勘違いして恥ずかしそうに聞いている千代さん。何とも初々しくて可愛くて、素晴らしかったです。
下町の女性を演じる八千草さんも珍しかったのですが、上品な香りが際立って印象的でした。寅さんがあわや結婚というところまでいった、シリーズでは珍しいマドンナといえます。
もし2人が結婚していたら? まあ、寅さんは千代さんを大切にすると思いますが、結局はうまくいかなかったでしょうね(笑)。
■第10作『男はつらいよ 寅次郎夢枕』(1972年)
幼馴染の千代(八千草薫)に再会し、ひと目で恋に落ちた寅だったが、岡倉(米倉斉加年)も千代に好意を寄せていると知ると、2人の間を取り持とうとするのだった。
【プロフィール】
山口良一(やまぐち・りょういち)/1955年生まれ、広島県出身。1981年にテレビ『欽ドン! 良い子悪い子普通の子』のヨシ夫役でブレイク。以降、司会や俳優など幅広い分野で活躍している。
※週刊ポスト2024年1月1・5日号