──世間から見ると「引退したんだね」と思われてしまいますよね
結婚の記者会見でも、引退なんて一言も言われなかったし、言ってないんです。でも年子の後に5年離れた第三子の次男が生まれて。ますます出来なくなっていきました。それから現場を離れて10年くらい経っていた頃ですね、すごい大役のお話があったんですよ。でも、もう現場を離れて長い時間が経っていたので自分にはその役を演じるだけの度胸がなく怖くてお断りしたのです。ちょっと離れていると、あれだけやりたかったのに、すごく良い役のオファーが来てるのに「背中をドーン」って押されなかったというか。自分から飛んでいけなかった……。
──その分、子育てが楽しかったということですか?
はい、ものすごく充実していました。女優の仕事よりも、最優先になりました。役の中を演じて、女優面を大きく取り上げられるよりも、実人生を実り豊かにする方がとても心地よかったし楽しかったです。我が子という命と向き合う事が最優先という日々に変わっていきました。ちなみに、私は「音楽が溢れる」家庭が夢だったのでそれは叶いましたね。そして1人の女の子と2人の男の子を産みたいと思っていましたからそれも叶いましたね。
──マドンナといい、夢を叶える。すごいですね。
そうなんですよ。強く思えば叶うのです。だからなんか私、魔法が使えるんですよ!(笑)。
──長渕さんとは、この作品の後に結婚されるんですよね。
ドラマ「親子ゲーム」(1986年)でコンビ組んでるし、「男はつらいよ」でもコンビ組んでいて。撮影が終わってからも、「ライブを見においで」みたいな話から……なんだか……いつのまにか(笑)。
──もうお互い気持ちがあったんですか?
さあどうでしょう(笑)。女優を「虚像」と言うのなら、虚像としての女優の仕事は、おかげさまで主演映画も頂いていたりしていたので、順風満帆でした。30才になった時に、このまま女優だけ続けていくのは、自分の実生活が寂しいと思いました。それははっきりと。今の30才はまだ全然若いですよ。ただ、私の時代の30才ってとても大きな節目みたいな感じがあって。ただ、もし私がまだ売れてなくて女優としてもがき続けていたら、まだ絶対結婚してないですね。まだこんなんじゃない! みたいなのがあったと思います。
【プロフィール】
志穂美悦子(しほみ・えつこ)/1955年生まれ、岡山県出身。JAC入会を経て、アクション女優として人気を博す。代表作に映画『女必殺拳』シリーズ、『二代目はクリスチャン』、ドラマ『影の軍団』シリーズなど。結婚後は女優業を休止し、現在は花創作家(フラワーアーティスト)として活動中。
撮影/宮本賢一