東京地検特捜部による捜査が進む安倍派の裏金問題。政権の支持率は急落したが、岸田文雄・首相は今回の騒動を奇貨として、「数の力」で大きな影響力のあった安倍派議員を政権の要職から一掃。それによる政権維持を目論んでいる。また、特捜部が安倍派議員らへの事情聴取に乗り出していた昨年12月20日、岸田首相は国民が支払う医療費の積算根拠となる「診療報酬」の本体部分引き上げを決定した。診療報酬引き上げは、自民党の「最大最強のスポンサー」と呼ばれる日本医師会が強く要求してたものであり、岸田首相ら主流派が、医師会に擦り寄っているとの指摘もある。だが、事はそう簡単に進むはずがない。通常国会を前に、恨みを募らせた安倍派の「死なばもろとも」作戦が迫っている──。【前後編の後編。前編から読む】
献金後に引き上げを決定
診療報酬の改定は2年ごとに行なわれるが、岸田首相は前回の改定時に日本医師会から巨額の献金を受けている。
2021年の改定では政府は当初、診療報酬を0.4%引き上げる方針だったが、医師会側はさらなる上乗せを要求して激しい陳情を展開した。
折しも自民党では菅義偉・前首相が退陣表明し、改定は次の首相の判断に委ねられることになった。同年9月29日に行なわれた自民党総裁選は事前の予想では岸田氏と河野太郎氏のどちらが勝つかわからない情勢だったが、決選投票で岸田氏が新総裁に選出され、総理就任が確定すると、日本医師連盟はその日のうちに岸田首相の資金管理団体「新政治経済研究会」にポンと1000万円を献金したのである。
タイミングから見ても、診療報酬改定を睨んだ“就任祝い”だったことは容易に想像できる。
日本医師連盟に献金について聞くと、「法律に従い適正な政治活動を行なっております」と答えた。
岸田事務所は「政治資金は法令に従い適正に処理し、その収支を報告している」と回答した。
法令に従うのは当たり前だ。だが、診療報酬改定の結果を見ると、献金の効果はてきめんだったことがわかる。
就任したばかりの岸田首相は医師会の要求通り診療報酬を上乗せして0.43%の引き上げを決定、「岸田裁定」と呼ばれた。この年の岸田首相への医師会関係団体からの献金総額は合計1400万円にのぼり、前年の250万円から5倍以上に急増した。
“こんなにおいしいのか”──首相がそう思ったとしても不思議ではない。
今回の診療報酬改定は前回以上に揉めた。医師会と財務省の大バトルとなったからだ。