「最初は着陸の衝撃だとばかり感じていて、まさか自分が乗っている飛行機がぶつかったとは思いませんでした。その後、少しずつ機内に白い煙が入ってきて、機体の後方からは“火が出てる!”といった叫び声が聞こえてきました。それで一大事が起こっているとわかりましたが、逃げようとする人が前方に殺到したりすることはなく、ほとんどの人が自席で煙を吸わないよう頭を下げていました」
新年の空の玄関口で、前代未聞の事故が起きた。1月2日、羽田空港に着陸しようとした日本航空の旅客機(新千歳発・JAL516便)が、滑走路上で海上保安庁の航空機と衝突、炎上した。事故直後に撮影された映像では、日航機の先端部分が大きくへこみ、両翼のエンジンから勢いよく炎が上がっていた。冒頭は、その日航機に乗り合わせた女性客の言葉だ。
「CAのかたは、混乱が起きないよう必死に“立ち上がらず、落ち着いてください!”と叫んでいました。パニック状態でしたが、その指示に従うばかりでした。ですが、機内の照明が消えて、どんどん暑くなってきたんです。その時点で、もう死ぬんだな、という思いでいっぱいでした」(前出・女性客)
海保の航空機は、能登半島地震の被災地に物資を運ぶため、出発の準備をしているところだった。
「海保機は、2011年の東日本大震災の際、検査のため仙台空港に保管されていました。津波により浸水・損傷しましたが、海保が懸命に修復し、“仙台空港で唯一生き残った機体”として、震災翌年に羽田航空基地に移されました。『自然災害からの復活』を象徴する機体だっただけに、能登半島地震の支援の途上で事故が起きたことに、海保関係者は強い衝撃を受けています」(全国紙社会部記者)
管制ミスや誘導指示の聞き間違いなどが原因として囁かれている。空港関係者が話す。
「羽田空港には4本の滑走路があり、今回事故が起きた滑走路には、平行して別の滑走路が走っています。その2本を、風向きによって片方を離陸用、片方を着陸用として運用するのが通常です。そのため、日航機が着陸してくる滑走路近くに、出発を控える海保機がいたというのは、不可解に感じられます」
海保機に乗っていた6名のうち、5名の死亡が確認された。一方、日航機には子供8名を含む乗員乗客379名が乗っていたが、全員が脱出した。前出の女性客のように、機内には衝突や炎上といった事態をのみ込めない人が多くいたにもかかわらずだ。加えて、別の乗客の中には、
「窓から炎が見えていて煙も充満しているのに、いつまでも脱出のアナウンスをされず、子供の泣き声と、“早くここから出して!”と大声が響いていた」
と話す人もいた。
「当該の日航機は約400人の定員で、国内線では大型の部類。規模が大きい機体なので複数の脱出口が設けられていますが、“とにかく開ければいい”というわけではありません。乗員は『火の手が回っていない脱出口』を一瞬で判断しなければならないのです。仮に燃えさかる部分のドアを開けてしまえば、機内に炎が一気に逆流し、最悪の事態が起きていたかもしれません」(航空会社関係者)
また、われ先に脱出口に向かおうとほかの人を押しのけたり、自分の都合ばかり考えて荷物を持ち出そうとした人がいたら、スムーズな脱出はできず、その当人だけでなく多くの死傷者を出したかもしれない。
「事故から脱出までは“90秒以内”という航空業界の鉄則がありますが、それほど短時間で炎が迫る中、乗員は判断を間違えなかった。乗客第一で行動した乗員と、危機的状況でも冷静だった乗客たちによって、犠牲者なしという奇跡が起きたのです」(前出・航空会社関係者)
事故の原因究明が待たれる。
※女性セブン2024年1月18・25日号