今年の大河は平安時代中期をテーマにした『光る君へ』。吉高由里子が紫式部を演じる謎多き時代はどう描かれるのか──。東京大学史料編纂所教授の本郷和人氏と『源氏物語』を専門とする津田塾大学教授の木村朗子氏が見どころを予想した。
本郷:大河では幕末維新期や戦国時代などが描かれることが多いですが、紫式部が主人公だと発表された時、専門家としてどう思いましたか?
木村:ようやく“誰かの妻ではない女性”が主人公になったと思いました。女性が主人公の作品も増えましたが、篤姫なら「13代将軍・徳川家定の妻」、北条政子は「源頼朝の妻」と、歴史上の人物の妻としてクローズアップされてきましたから。
本郷:揚げ足を取るみたいですが(笑)、『おんな城主 直虎』の井伊直虎がいましたね。ただ、歴史学者の間では常識ですが、直虎は実は男です。その意味では木村先生の言う通り、初めてですね。
木村:紫式部にも夫がいましたが、歴史上のメインキャラクターというわけではありませんでした。
本郷:僕は紫式部と聞いて「十二単などの衣装にお金がかかるだろうな」と思いました。ただ、あの時代は『どうする家康』のような合戦のロケやCGがない分、制作費の帳尻が合うかもしれません。
木村:派手なシーンがないからこそ、勢力争いを役者陣が“顔芸”で表現する『半沢直樹』みたいな演出もありそうです。
本郷:あるかもしれません(笑)。NHKは〈絢爛豪華な平安絵巻〉と銘打っているらしく、今回は貴族の世界が中心に描かれるようです。その象徴である藤原道長役(柄本佑)は、もっと派手な俳優でもよかったのでは?
木村:いえいえ、柄本佑さんはイケメンですよ。ただ、清少納言(ファーストサマーウイカ)などがイケメンと騒いだのは藤原斉信ですけれど。今回は金田哲さん(はんにゃ)が演じるみたいです。
本郷:え~、そうなのかな。まぁ、女性がおっしゃるなら(笑)。今回は紫式部と道長がメインの物語ですが、関係性について改めて読者のためにも教えてもらえますか?
木村:紫式部は道長の長女・彰子(見上愛)に仕える女房(女官)でしたが、それは物語を書く才能を認められてのことです。彰子のもとには歌が詠めたり、楽器を弾けたりと一芸の持ち主が女房として多く集められました。当時は宮中で権力争いをしており、道長にとって紫式部は“自陣の精鋭部隊のひとり”という感じだったと思います。