テレビCMや街で見かけるポスターや看板、ネットでも商品やサービスについて繰り返し目にすると、親しみがわき、だんだん信用できるような気分になるのが人情だ。ところが、宣伝に注力するあまり倒産する企業が相次いでいるのが脱毛サロン業界だ。ライターの宮添優氏が、広告宣伝費へ過剰に投資するなかで何が起きていたのか、レポートする。
* * *
大手脱毛サロンが突如「倒産」したことが、2023年はSNS上でたびたび話題になった。12月に倒産した脱毛サロンは、いわゆる「老舗」ではないものの、有名タレントを起用したテレビCM、電車の中吊り広告にも力を入れ知名度が急上昇。全国各地に店舗を構えるまでになっていたため、被害者数も少なくない模様だ。顧客だったという都内在住の団体職員・中村真由美さん(仮名・30代)は憤りを隠さない。
「テレビでもあれだけCMやっていたし、SNSでも有名人がたくさん宣伝しており、完全に信用していました。最初は、VIO脱毛のお試しだけと思って来店して、その後結局、あれこれおすすめされるのを断り切れなくて、全身脱毛約50万円分のローン契約を結びました。それが今年の10月で、まだ施術は何回分も残っていますが、全く補償されないと。もちろん、ローンだけはそのまま残り、支払うしかないそうです。10月の時点で、倒産する可能性を知っていて勧誘していたのではないかと疑ってしまいます」(中村さん)
このような場合、クレジットカードなどでの支払いが残っていたとしても、カード会社に対して支払いを停止する申し入れができるといった救済システムもある。しかし、倒産ニュースで混乱しているためか、中村さんは全く把握もしていないようだ。脱毛のように、あまり人に知られたくないような大きな買い物のトラブルについて、オープンに相談しづらいため嘆きと怒りをため込んでいる人は、実は少なくないのかもしれない。
広告費がかかりすぎた
12月に倒産した企業ほどの事業規模には至らないものの、脱毛サロンが突如倒産したり、閉鎖したりという事例は珍しくなくないという指摘もある。一連の騒動を取材している民放キー局の社会部記者が説明する。
「2023年は1月から9月にかけて9つのサロンが倒産し、すでに年間過去最多を記録していました。コロナで客が減ったとか、スタッフ不足だとかいろいろな理由が言われていますが、普通に考えたら、新規の顧客からはある程度まとまったお金が入るので、キャッシュフローが急に極端に悪くなることは考えづらいはずなんです。ただ、倒産した店を調べていくと、ある費用が突出しています」(民放社会部記者)
その費用とは、ずばり宣伝広告費用なのだという。今回の倒産企業もテレビCMや電車内の中吊り広告による宣伝に力を入れていたが、倒産するなどした脱毛サロン関係者の多くが、取材に「広告費がかかりすぎた」と漏らしているという。