日本のみならず世界が涙したNHKの連続テレビ小説『おしん』(1983年度)から40年。『ブギウギ』(2023年度後期)が多くの視聴者の心を掴んでいる。『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』著者の田幸和歌子氏と、『みんなの朝ドラ』著者の木俣冬氏が、史上最高の朝ドラについて語り合った。
田幸:『ブギウギ』はなんと言ってもヒロイン・スズ子を演じる趣里さんはじめ実際のパフォーマンスが画期的。笠置シヅ子さんがモデルということで歌を期待した人も多かったと思いますが、今の朝ドラはここまでのパフォーマンスを見せてくれるのかと驚かされました。
木俣:『おしん』の舞台も戦前、戦中、戦後と重なりますが、「奉公」の描写ひとつをとっても真逆です。『ブギウギ』はスズ子の付き人の小夜ちゃん(富田望生)が奉公のことを「酷い目に遭った!」と小ネタのように喜劇的な感じで口にしますが、『おしん』での「奉公」はこんな目に遭ったのかと深く考えさせられる描写になっていた。
スズ子の運命の相手である愛助(水上恒司)を小夜ちゃんが「泥棒」呼ばわりするのですが、それこそ『おしん』は奉公先で泥棒扱いされて身体検査までされる。両作を観ることで補完し合える面白さがあります。
ヒロインの「色気」
田幸:『おしん』は働き方改革なんてない時代の制作スタッフが合宿状態で作っていたと聞きますし、どこを観ても濃厚です。1年間を1人の脚本家(橋田壽賀子)が書き上げて、全く飽きさせずに走りきった『おしん』は異質だなと今振り返っても思います。
木俣:『ブギウギ』はむしろ『おしん』が濃密に描いた現実的な部分を排除して、「つらく苦しいことはひととき忘れ、歌って踊りましょう」という世界観になっています。
ヒロインで言うと、朝ドラは「たぬき顔がいい」という説があって、目がぱっちりした女優の印象ですが、『おしん』の田中裕子さんも『ブギウギ』の趣里さんも目がつぶらで表情豊か。それぞれバイタリティのあるヒロインなのに「私が私が」という感じがなく、ひたむきで楚々として見えるところが素敵です。
田幸:『おしん』をリアルタイムで観ていた子供の頃には気づかなかったのですが、大人になって観ると、おしんを演じる田中さんが夫の竜三さん(並樹史朗)に「大好き」と、とっても艶っぽい目つきと声色で愛情表現している。朝ドラでよくこんな色っぽいヒロインを毎朝見せていたなと(笑)。