ネット上では空前のフェイクドキュメンタリーブームが巻き起こる中で、テレビもフェイクドキュメンタリーを扱った番組が数多く制作・放送されている。なかでもファンを唸らせたのは、2023年1月に放送されたSFドラマ『CITY LIVES』(フジテレビ)である。
『CITY LIVES』は「街は大きな生き物である」というSF的な設定のドラマ。あくまでフィクションのドラマとして視聴することになるが、最新の映像技術であるVFXがふんだんに使用されることで、ドキュメンタリーと見紛うようなリアリティの強度で街の生態を映し出した。
映像を手掛けたのは針谷大吾氏と小林洋介氏。聞き手は、『1989年のテレビっ子』『芸能界誕生』などの著書があるてれびのスキマ氏。現在、ネットで話題のフェイクドキュメンタリーに意欲的に取り組んでいるテレビ番組の制作者にインタビューを行なう短期シリーズの第4回【前後編の前編。文中一部敬称略】。
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『生きもの地球紀行』のノリで“街”の発情期を描きたかった
2023年1月から2月にかけてフジテレビの深夜に放送された奇想天外な番組『CITY LIVES』は視聴者に強烈なインパクトを残した。
『CITY LIVES』では冒頭から、『LiVES』と題した生命ドキュメンタリー番組が始まる。この番組のナビゲーターを務める高嶋政宏は「今週から3週連続で取り上げるのは、皆様もよく知っている世界でいちばん大きな動物。そう、『街』です」と宣言する。
『LiVES』は、巨大生物である「街」を「都市型生物保護機構」の保護官が調査・観察する様子を密着取材したドキュメンタリーだが、取材中、ある保護官同士の再会をきっかけに「街」に異変が起こる。
『CITY LIVES』は「街」と二人の保護官の行方を見守るフェイクドキュメンタリー(モキュメンタリー)形式のSFドラマである。
本作の原作・脚本・監督を務めたのは針谷大吾と小林洋介。2020年に公開した自主制作SF短編映画『viewers:1』が「GEMSTONE」第6弾企画「リモートフィルムコンテスト」グランプリなど数多くの賞を受賞し、ネット上でも大きな話題を巻き起こしたコンビだ。2人に『CITY LIVES』がどのように誕生したのか話を伺った。
小林洋介(以降、小林):元々僕らの知人のプロデューサーがフジテレビから“いきの良い企画”がないかって話があって、たまたま僕らがすぐ出せる企画があったんです。それが、「街が生きている」という企画でした。元々は短編として考えていて自主制作でつくるつもりでしたが、企画書を送ったら採用されたんです。それをドラマ用に長くしていきました。
もともとの企画は、「実は街は巨大生物で、やがて街同士が交尾する」というシンプルな内容だったが、与えられた放送枠は30分尺で3話分。当初の想定からは大幅に増えたボリュームに合わせ、街同士の恋愛(交尾)に、人間同士の恋愛ドラマ要素を重ねた。
針谷大吾(以降、針谷):(小林に)「街が交尾するんですよ!」って言われて、「突然何を言っているんだ、君は?」ってなったんですけど(笑)。元々はナショナルジオフラフィックで放送している動物ドキュメンタリー番組みたいな感じで、専門家のインタビューと「街」の生態の紹介を5分くらいでやったら面白いんじゃないかっていうのがスタートでしたね。
小林:『生きもの地球紀行』(NHK)みたいな感じで街の発情期を淡々と描いて、柳生博さんのナレーションで『秋は街の恋の季節です』という文言が入るというのは決まってました(笑)。建物や風景の“怪獣化”みたいなことをずっとやりたくて、最初は全然ドラマチックな要素はないウソ科学ドキュメンタリーみたいなイメージでした。
針谷:そこに「街は人の記憶を擬態する」という設定を加えて人間ドラマを入れていったんですけど、街の交尾という壮大な話だから、人間ドラマのほうはなるべくみみっちい 話にしようと。
第1話に登場する「E604」と呼ばれる街の保護官・高城準(広田亮平)と、第2話の「N507」を担当する辻みさき(片山友希)が実は大学時代の知人同士で、互いに好意を持っていたという設定。勇気が出ず告白できなかったことを心残りとしている。
小林:大人になってから、大学時代にうまくいかなかった男女の夜の思い出がぶり返す程度のほっといたら誰もドラマでとりあげないくらいの規模感がちょうどいいかと思いました(笑)。「人類の進化の旅路」と「休日の夜にラブホが空いてなくてカップルが街をさまよう」という二つの要素を重ねたキリンジの「The Great Journey」という曲があるんですけど、それだ!って。
針谷:それ、初めて聞いた(笑)。