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【山口組分裂抗争の行方】神戸山口組・井上邦雄組長は「穴熊戦法」を選択、長期化で“寿命勝負”に

ノンフィクション作家の溝口敦氏(左)とフリーライターの鈴木智彦氏が山口組分裂抗争の行方を語り合う

ノンフィクション作家の溝口敦氏(左)とフリーライターの鈴木智彦氏が山口組分裂抗争の行方を語り合う

 今年8月で10年目に突入する六代目山口組と神戸山口組の「分裂抗争」。依然として終結への道筋は見えないが、両者の抗争はいつまで続くのか──。ヤクザ取材の第一人者であるノンフィクション作家の溝口敦氏とフリーライターの鈴木智彦氏が語り合った。【前後編の前編】

鈴木:六代目山口組が分裂したのは2015年8月27日、すでに8年以上が経過しています。今のところ終結の見込みはなさそうです。

溝口:10年を超える可能性は高いし、下手すれば15年超えの長期戦になるかもしれない。

鈴木:予想外の長期化となる気配はありますよね。抗争も緊張感に欠けていて、「殺されるかも」と思っている六代目山口組の組員はいないのでは。神戸山口組トップの井上邦雄組長はたとえ自分一人になっても解散しない意向で、要塞のような自宅に籠もっています。何度か襲撃されても人的被害はゼロでした。

溝口:井上組長は神戸山口組に固執するしかないと考え、将棋でいう「穴熊戦法」を選んだ。自宅にはボディガードが詰めていて、警察も厳重に警戒しているから、おいそれと手は出せない。

鈴木:暴力団に軍隊のような兵器や襲撃スキルはないので、籠もられると王手……トップの襲撃は難しいですね。重火器や自爆ドローンも密輸できるでしょうが確実な殺傷はできず、巻き添えも懸念されます。山一抗争のように、籠城先のトップ居宅にロケットランチャーを撃つ組員は出るでしょうか?

溝口:マスコミが大騒ぎするような派手な襲撃をしたら、組織的殺人で上層部まで逮捕される。自爆のような襲撃は回避するでしょう。ヒットマンが常にキーマンを狙っていても、同時に六代目側は神戸山口組の末端まですべての組員を切り崩し、ガードを一枚一枚剥いでいくしかない。

鈴木:最終局面まで神戸山口組に残った組員は腹を括っているでしょうから、切り崩すにしても時間がかかりそうです。

溝口:ただトップをはじめ指導者層が高齢だから、突然抗争が終わるかもしれない。

鈴木:井上組長は75歳、六代目山口組の高山清司若頭は76歳、そして六代目トップの司忍組長は81歳です。穴熊戦法は、先に寿命が尽きたほうが負けという“寿命勝負”を挑み、不確定要素に望みをかける戦略ですよね。

溝口:まるで長生き倶楽部同士の戦いだな。

鈴木:こんな展開になるとは予想外でした。

後編に続く

【プロフィール】
溝口敦(みぞぐち・あつし)/1942年東京都生まれ。早稲田大学政経学部卒業。『食肉の帝王』で2004年に講談社ノンフィクション賞を受賞。主な著書に『暴力団』『喰うか喰われるか 私の山口組体験』など。

鈴木智彦(すずき・ともひこ)/1966年北海道生まれ。日本大学芸術学部写真学科除籍。ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーに。主な著書に『サカナとヤクザ』『ヤクザときどきピアノ』など。

※週刊ポスト2024年1月12・19日号

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