過去の犯罪や不祥事だけでなく、不適切な言動を掘り返され炎上するなどし、社会的地位を失わせたり表舞台から追い出したりする風潮は「キャンセルカルチャー」と呼ばれ、SNSの発達とともに2010年代から世界に広がってきた。強者による、一方的で傲慢な権利侵害を訴えるには有効なやり方ではあったろうが、最近では、罪に対して代償が大きすぎるケースが多いとの指摘もある。ライターの宮添優氏が、スキャンダルと炎上に過敏になり、過剰な自粛ムードの末にメディアで何が起きているのかについてレポートする。
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芸能人や著名人のスキャンダルを週刊誌などが報じ、その後SNSを中心に炎上状態に陥る例が相次いでいる。スキャンダルの真偽が明確にならないうちに、当事者が出演するCMが差し替えられ、映像作品をお蔵入りにする対応をするテレビ局が出現するなど、メディアや広告代理店関係者らが、固唾を飲んでゆくえを見守る……といった光景は、最近では珍しくなくなった。
「スキャンダル記事が出ると、その事実確認よりも先に、まずは”自粛しよう”という空気がメディアに充満している。スキャンダル報道の後、番組関係者や局幹部が、慌てて報道に問い合わせをしてきて、どう報じられることになるのか、過去の出演映像を使うとその番組自体に傷がつく、などといった会話が飛び交っています」(キー局社会部関係者)
様子を見ると口ではいいつつも、問題があるとされた人物をキャンセル、メディアから存在を取り消す動きが、個々の事例について検討するより先に行われることが増えているというのだ。
真偽不明でも一度ついたイメージ払拭が難しい
問題となった人物が大物であればあるほど、メディアへの影響は大きい。明確に刑事事件の被告人になった人物の場合、テレビ局は出演する番組を急遽、差し替え、過去の映像アーカイブまで使用できないようにする、というのが最近、多く見られる対応だ。最近はその範囲が倫理的問題にまで広がりつつあるため、今回はどのようにしたらよいのかと様子をうかがい、だんだん大きなキャンセルになってきている。
キャンセルを求められる理由も、徐々に広がっているように思えてならない。何年、何十年も過去の言動を掘り起こされ、現代的な感覚によって断罪されるような光景も散見される。それら過去の過ちについては、改めて謝罪することで再出発や存続が受け入れられてきたが、やり直すチャンスを得られる機会も年々、少なくなってきているように思える。いったんキャンセルされると、回復がいつになるか分からないという風潮がとても強いのだ。
「アーカイブは放送局にとって“資産”ともいえ、それが未来永劫使えないとなると、その影響は甚大です」(キー局社会部記者)