【著者インタビュー】
中井由梨子さん/『栄光のバックホーム 横田慎太郎、永遠の背番号24』/幻冬舎/1760円
【本の内容】
中井さんは「あとがき」でこう綴る。《プロ野球選手としてだけではない、横田慎太郎という人間そのものを丸ごと表現したいと願って書いた本だ》。昨年7月18日、神戸のホスピスの部屋で息を引き取った横田慎太郎さん。享年28だった。彼を一番近くで見守り、支え、励まし続けたのが母・横田まなみさんだ。《母、横田まなみさんに筆者が成り代わり、ご本人から伺った数々のエピソードを元に、慎太郎さんの物語を綴ったノンフィクションストーリー》(端書きより)。母と息子の二人三脚に胸が熱くなる。
自分の進むべき道を行く息子を慌てて追いかけながらサポート
昨年のプロ野球は、阪神タイガースが38年ぶりに日本一に輝いた。リーグ優勝を決めたときも日本一のときも、胴上げで、その場にいない背番号24のユニフォームが宙を舞った。昨年7月に28歳で亡くなった横田慎太郎選手のユニフォームだ。
脳腫瘍で引退を余儀なくされても、人生をあきらめることなく、生きることの意味を語り続けた横田選手は、チームを精神的に支えた。彼の生涯を、母親の視点から描いたノンフィクション小説が『栄光のバックホーム』である。
横田選手が生前に出した自伝(『奇跡のバックホーム』)を映画にしようというプロジェクトが立ち上がり、船橋市立船橋高校吹奏楽部で「市船ソウル」を作曲、がんのため20歳で亡くなった浅野大義さんがモデルの『20歳のソウル』を手がけた中井由梨子さんが脚本を依頼され、2021年の春ごろから取材を始めた。
「お母様は重要な登場人物のひとりで、彼女の視点で書くセリフも多くなります。第3稿まで書いたところで、もっとお母様の話を聞きたい、お母様の視点で慎太郎さんの生涯を書いてみたいという気持ちになりました」(中井さん・以下同)
横田慎太郎は鹿児島実業高校卒業後、ドラフト2位指名で阪神に入団するが、2017年に脳腫瘍と診断される。手術は成功し、苦しい治療にも耐えて、復帰のためのリハビリに取り組んだが、視力に障害が残った。
2019年9月に最後の公式戦出場を果たす。ボールが2つに見えるような状態だったが、8回表、守備につくと、中前安打をノーバウンドで本塁に返して走者をアウトにして「奇跡のバックホーム」と言われた。