最大の魅力は、現代のテレビドラマにも通じる、細やかな心理描写

「現代のテレビドラマにも通じる細やかな心理描写が最大の魅力」だという

「朧月夜は2人を天秤にかけつつ、朱雀帝の寛容さに涙ぐむ。すると朱雀帝は、その涙はどちらのためのものなのか、とつぶやく。人並みはずれて優れた弟への劣等感と、自分は帝であるという自負が入り交じった、細やかで複雑な感情が伝わってきます」(奥山さん・以下同)

 光源氏をめぐってライバル関係にある、紫の上と明石の君が初めて対面するシーンも名場面として知られている。紫の上は、まだ幼かった頃に光源氏に誘拐同然に連れ去られて手元で大切に育てられた女性で、『源氏物語』では光源氏に次ぐ重要人物。対する明石の君は、光源氏が京を追われ流れ着いた先で出会い、心を通わせた女性。光源氏が復権した後、明石の君を京に呼び寄せた。互いを認め合う美しい場面とされているが、奥山さんによると、もう少し複雑なようだ。

 紫の上は明石の君を見て、身分は低いが確かにすばらしい女性だと認め、光源氏の心を奪ったのも当然だと思う。

「紫の上はここで『目覚まし』という言葉を使っています。目が覚めるほどすばらしいという意味ですが、これは現代語の『目障り』にも通じます。つまり明石の君をほめながら、ちょっと目障りというニュアンスもこめているんです」

 一方の明石の君は、紫の上の美しさに圧倒され、彼女が光源氏の女性たちの頂点にいることに納得する。

「そう思いつつも、宮中で紫の上と並んでいる私も偉い、といったことも書いています。とはいえ紫の上が豪勢な行列で宮中から帰るところを見て、私にはあんな行列はしてもらえない、と身分の違いを噛みしめるんです」

 単なる光源氏の恋物語では終わらず、こうした立場の違いや子供の有無などからくる一面的ではない心理描写の巧みなシーンが多いほか、女性たちの成長も描かれ、人間ドラマとして非常に優れているのだ。

(後編につづく。後編では『源氏物語』現代語訳の読み比べを紹介します)

取材・構成/仲宇佐ゆり

※女性セブン2024年2月1日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左・撮影/山口比佐夫、右・AFP=時事)
《笹崎勝巳レフェリー追悼》プロレス仲間たちと家族で送った葬儀「奥さんやお子さんも気丈に対応されていました」、クマ襲撃の現場となった温泉施設は営業再開
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
役者でタレントの山口良一さんが今も築地本願寺を訪れる理由とは…?(事務所提供)
《笑福亭笑瓶さんの月命日に今も必ず墓参り》俳優・山口良一(70)が2年半、毎月22日に築地本願寺で眠る亡き親友に手を合わせる理由
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月20日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン