発災後の72時間は人命救助のタイムリミット。生き埋めになった人などの救助を最優先するために、ひとりひとりが普段から防災・自衛の意識を高めておく必要がある。今回の大震災で改めて必要と感じた「災害の初期を乗り切る」ための準備をプロに聞いた。
能登半島地震の発生後、行政の要請で現地に赴いた防災アドバイザーの岡部梨恵子氏。現地を見て特に被災者の健康状態が気になったという。
「寒い避難所は非常に過酷です。特に屋外の仮設トイレは、くさい、汚いという理由でがまんしてしまうかたも多い。すると、エコノミークラス症候群や水を飲まず脱水症状を引き起こし、最悪死に至るケースもあります。2016年の熊本地震では、発災後の避難生活などで命を落とすかたがたが、直接死亡した数の4倍以上でした」
とはいえ、何から始めていいかわからないという人に岡部氏が推奨するのは、「防災ポーチ」を用意しておくことだ。72時間をしのぐための第一歩として、最低限の防災グッズを詰めたものである。
「もちろん自宅での備蓄なども必要ですが、どこで被災するかわからない現代、災害の初期を乗り切るために防災グッズを携行したいものです。今回紹介するものは、においや音、光に敏感な現代人の特性にも対応しており、避難時の肉体的・精神的なストレスも軽減できます。持つことで心の安定にもつながりますよ」
災害の初期を乗り切るための準備をしておけば、自分の命だけではなく、人命救助に優先的に人員を割くことができ、多くの命を救うことにつながるのだ。
専門家がすすめる命を守る12の防災グッズ
岡部氏がすすめるグッズを収納。毎日持ち運べるサイズにするため、内容量の多いものは小分けにする、パッケージから外すなどして、できるだけ軽くコンパクトな状態にして詰めるのがコツ。ポーチのサイズは22cm×12cm×12cm。★は岡部氏が特に推奨するものです。
●虫よけ用ストール『インセクトシールド 虫よけソリッドストール』4950円
真冬以外は、避難先で虫に刺されて感染症につながる危険が高い。特に、マダニ、ヒアリには要注意。「ストールタイプなら骨接ぎ布、風呂敷としても活躍」。
●緊急の連絡先メモ
家族の連絡先のほか、血液型、持病やアレルギーの有無も書いておくとよい。透明ケースに入れたり、ラミネート加工を施しても。
●ペットボトル(500ml以上)の水かお茶
命に直結する「水」は携行必須。「出先でもこまめに補充し、帰りもフル容量をキープ。のどが渇きにくい、味のない飲料がベストです」(岡部氏・以下同)。
●耳栓『ビーセーフ 耳せん 2ペア』308円
避難所では話し声、いびき、子供の泣き声などが響き、メンタルに影響しやすい。騒音を低減し、精神の安定を。価格は編集部調べ。
●防臭袋★『驚異の防臭袋BOS Mサイズ90枚入り』1080円(クリロン化成)
医療向け開発から生まれた袋で、縛るだけでにおいも菌も通さない。「被災後、ゴミ収集車はなかなか来ない。おむつ、ペットの糞、生ごみなどの臭うもの入れに」。ポーチ内は3日分(3枚)。価格は編集部調べ。
●アイマスク『中山式産業 中山式立体型安眠マスク』1650円
避難所は深夜でも明るい場合が多い。目から入る光を遮断することで寝つきがよくなり、安眠を確保しやすい。
●生理用品
災害のショックで生理不順になるケースもあり、念のために持っておきたい。また、けがの際の止血にも役立つ。
●ホイッスル『sanwa 防災防犯ホイッスル サイコール』286円
自分の生存や位置を知らせるために。「人の耳が聴き取りやすい3000〜4000 Hz(ヘルツ)の周波数のものがベター。コルクタイプは濡れると音が出ない」。