自分の思い込みなんて本当にちっぽけなもの
仕事や家庭、そして世の中に対して生きづらさを感じる人も多いが、世界を見て回ったことで日本の習慣を相対化して見られるようになったと話す。
「日本では『こうじゃなきゃいけない』という暗黙のルールに縛られがちですが、たとえ経済的に貧しいとされる国でも、日本人より笑って暮らしている人々は世界にはいっぱいいる。
刻々と変化するいまの地球では、もっと変幻自在な生き方があってもいいと思う。
最近の日本の気候は熱帯雨林並みですが、いまだにカレンダー的なルールを変えようともしない。真昼の酷暑の時間帯に冷房をガンガン効かせて無理やり働くのは、まったく理にかなっていない。その点スペインの『シエスタ』という昼休みをたっぷりとる伝統は、先人の暮らしの知恵だなと思う。自然の歩みに寄り添いながら暮らすことで、体も復活して作業効率も上がるし、エネルギー節約もできる」
そんなふうに考える山口にとって、日本はあまりにも窮屈そうだが──。
「日本の食文化や職人技を心から尊敬しています。ただそこに埋没し世界を知るチャレンジをサボってしまうと、閉塞感でときめきのセンサーが起動しなくなる。自分のフィールドから時折距離を置くことで、自分の郷里の素晴らしさに改めて気づける。だから『旅』は大事なリセットタイム。
初めて一人で旅したポルトガルに、昨年コロナ禍以来久しぶりに行ってきました。日本の『港町ブルース』みたいな大衆歌『ファド』をとことん聴きたくて。
暮らしの辛苦を歌いながらも、歌声には希望が溢れていて、一晩中聴いていても飽きません」
2023年には、憧れの人の名を冠した「兼高かおる賞」を受賞。氏の遺志を受け継ぎ、気品とユーモアを持って独自の旅を発信していると認められもした。いま、テレビにどんな思いを持っているのか。
「テレビから夢をもらって、俳優としてテレビに育てていただいたので、いつかは旅や人生で学んだものを、テレビを介してエンターテインメント界にお返ししたいと思っています」
これからも、愛するものを追い求める旅を続けていくのだろう。
「人生を振り返ると、大好きだったものがある日突然大嫌いになったり、その逆もあったり、自分の思い込みなんて本当にちっぽけなものだと痛感します。