香港高等法院(高裁にあたる)は1月29日、経営再建中の中国の不動産大手、中国恒大集団に清算命令を出した。この一件は中国不動産バブルの崩壊のみならず、中国経済衰退のトリガーを引くものだという。深刻な機能不全を抱える中国経済の実態を、元TBSアナウンサーでジャーナリストの松富かおり氏がリポートする。
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1月29日、香港の高等裁判所が中国恒大集団に清算命令を出した。恒大集団は、不動産大手で2兆3882億元(約50兆円)の負債総額を抱える。そんな企業の精算命令は香港史上最大だ。前日の28日に政府が「空売り」規制策を強化したことでわずかに落ち着いて見えた株価だが、不動産不況による景気の先行き不透明感が強まり、29日の上海株式相場は5営業日ぶりに反落した。これは一過性のものと見るべきではないだろう。
背後にある金融システムへの不信
人民元も約1週間ぶりの安値となった。中でも目を引くのが、「銀行株の不振」だ。恒大集団の銀行融資明細表に行名が記された地方銀行では、預金を引き出そうとする顧客が殺到する騒ぎも起きている。
中国人民銀行は、「銀行融資に占める不動産関連の融資は23%。その8割は個人の住宅ローンで、不動産企業の生産などが金融システムに与える影響は管理できる範囲」と安全性を強調する。公的には商業銀行の不良債権額は3兆1000億元(約65兆円)に過ぎない。
しかし、この数字は鵜呑みにはできない。アメリカの格付け会社 S&Pグローバルが明らかにした資料によると、ある銀行が資料に示した不動産向け不良債権は計15億元だったが、返済を求めて起こされた裁判の債権額は恒大集団だけで326億元に上った。
中国の銀行融資の査定は恣意的で甘いのだ。統計上は、不良債権は1%台とされているが、本当のバランスシートははるかに悪化していると考えられる。つまり、すでにデフォルト認定された最大手カントリー・ガーデン・ホールディングズ、デフォルトの懸念が未だ拭えない大連万達集団(ワンダ・グループ)など不動産不況の痛手は、中国の銀行にはるかに大きなダメージを与えると考えられている。
ゴールドマン・サックスは、「不動産不況により、中国の銀行は約1兆2000億元の損失を被る可能性がある」と試算する。中国株の下落が止まらない裏には、中国の『金融システム自体への不信』が高まっていることがある。