「最初に食べたご馳走は何ですか?」。子供の頃に母が作ってくれた料理、上京したときのレストラン、初任給で行った高級店…。著名人の記憶に刻まれている「初めて食べた忘れられない味」を語ってもらい、証言をもとに料理を編集部で再現する企画「私の最初の晩餐」。今回は女優・秋野暢子さん(67才)。
大阪で生まれ、中学生の頃から学生演劇で注目を集めていた秋野さん。NHK連続テレビ小説『おはようさん』に主演し、18才にして全国的な人気を得た。高校卒業後は東京で活動し、25才で世田谷区に自宅を購入。以来、40年以上にわたって暮らしているが、この夏に一大決心をしたという。亡き母との思い出の詰まった自宅をリフォームし、2 世帯住宅に改造したのだ。
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大好きな街ですが、祖師ヶ谷大蔵に家を建てたのは偶然でした。仕事が軌道に乗り始めた20才のとき、同居していた母に「欲しいものある?」なんて軽口を言ったら、「ウチ(一戸建て)が欲しいなあ」と。
私の実家は大阪の呉服屋で、5才くらいまでは裕福な方でした。でもあるとき、知人の保証人になった父が大きな負債を背負って、何もかも失いました。家もなくなってしまったので、雨風だけはしのげる蔵で寝起きして。その後、蔵を壊して小さな家を建てましたが、借金を返済するために1階は他人さまに貸し、私たちは2階。だから、家に対する母の思いは、よくわかっていました。
どうにかして叶えてあげたくて、ものは試しと銀行に行ってみたんです。そうしたら、支店長さんが親切な方で「いますぐは難しいけれど、これから5年間、毎年決まった金額を積み立ててくれれば、25才でローンを組めるようにします」と。だからその通りに貯金したら、本当に25才でローンの申請が通りました。そこから予算内で探し始めて、この街に行き当たって。
三浦知良も通っていた洋食屋「トモダッチ」
洋食屋さんの「トモダッチ」に通うようになったのは、引っ越してきてすぐです。Jリーグが発足する前でしたけど、若き日の三浦カズ(知良)くんも来ていて、お話しするようになったり……懐かしいな。
娘が生まれてからは、野菜を中心にした料理ばかり作っていました。彼女の体のためを思ってのことでしたけど、なんでもやりすぎはダメですね。小学校に入ってすぐ、彼女が急に野菜を嫌がるようになってしまいました。
でも、トモダッチのロールキャベツに限っては、ペロッと平らげるんです。娘にとっては最初に知った外食だし、ご馳走だったのでしょう。サイズは大きいけれど、優しい味だから胃もたれなし。たしか、隠し味にははちみつを使っていたはずです。残念ながら、20年ほど前に店仕舞いしてしまいました。
同じ場所に長く住むと、街の変化がよくわかります。トモダッチだけじゃなく、名店といわれたお寿司屋さんの青柳も閉めたし、私の家だって2度目の大改造です。最初の建て替えは36才のとき、不妊治療をやめたタイミングでした。子供を持たない新しい人生のために設計したのですが、工事が始まったときに妊娠がわかりました。それで急いでまた設計を変更して、今回のリフォームは30年ぶりの大改造ですね。
いまは、娘夫婦が1階に暮らしています。水回りも何も分離した完全2世帯住宅ですが、 朝が早い2人に朝ごはんだけは私が作って仲よく食べてます。
彼にも、娘が好きだったロールキャベツを食べさせてあげたいなあ、なんて思うときもあります。
野菜嫌いだった娘がペロッと平らげたロールキャベツ
《材料》(3人前)
キャベツの葉:大6~9枚 合いびき肉…540g 白米…60g 玉ねぎのすりおろし…大さじ2 はちみつ…大さじ1 ナツメグ…小さじ1 塩・こしょう…各少量
[煮汁A]
粗こしトマト…300g 水…2カップ はちみつ…大さじ2 固形ブイヨン…2個 ローリエ…1枚 オリーブオイル…大さじ1 にんにくみじん切り…1かけ分 塩・こしょう…適量
[仕上用ソースB]
粗こしトマト…50g デミグラスソース(市販) 水…各大さじ2 トマトケチャップ…大さじ1 はちみつ…大さじ1
サワークリーム…適量
お好みの付け合わせ…じゃがいも・にんじん・ブロッコリー・イタリアンパセリなど各適量