ライフ

【逆説の日本史】「煽りに煽る」――戦前とまったく変わらぬ反省無きビジネスモデル

作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』(イメージ)

作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』(イメージ)

 ウソと誤解に満ちた「通説」を正す、作家の井沢元彦氏による週刊ポスト連載『逆説の日本史』。近現代編第十三話「大日本帝国の確立VIII」、「常任理事国・大日本帝国 その3」をお届けする(第1407回)。

 * * *
 じつは私は二年ほど前から関西に移住して、現在は阪神タイガースそして阪神電鉄の「本拠地」とも言うべき阪神甲子園球場の近くに住んでいる。私自身はタイガースの熱烈なファンでは無いのだが、近くの居酒屋に行けば酔客はほとんどタイガースファンである。そのなかには、私の読者もいないわけでは無い。最近若い人から、以前書いた「阪神球団の幹部は客さえ入れば優勝などしなくていいと思っていた、なんてことが本当にあったんですか?」と聞かれた。

 そうか、若い人は知らないんだ、とあらためて「隔世の感」を抱いた。現代はあらゆる物事の変化のスピードが激しいので、十年、二十年たつと社会の常識が根本から変わってしまうということがよくある。しかも、これに加えて日本では独特の「水に流す」という信仰があり、都合の悪いことは忘れてしまえばよいという文化があるから厄介だ。その結果、同じ過ちを繰り返すということになるからである。

 それに歯止めをかけるのが「歴史の認識」なのだが、ここは昨年三十八年ぶりの日本一の美酒に酔いしれたタイガースファンのために、あえて球団が同じ過ちを繰り返さないように、過去の真実をあらためて記しておこう。

 それは、一九七三年(昭和48)十月二十日(あらためて気がついたが、いまから半世紀以上前の話だった。若い人は知らないはずである)、巨人に追いついた阪神が、この日負けさえしなければセ・リーグ逆転優勝が決定する日のことだ。当時、阪神の絶対的エースは江夏豊だった。現監督の岡田彰布との対談本で、江夏は次のように述べている。

〈江夏 (前略)あと1勝したら優勝よ。「ボーナスの話でもあるんかな」と、喜び勇んで報知新聞の車に記者を待たせたまま、本社に向かったのよ。通された部屋のドアを開けたら当時の長田睦夫球団代表と鈴木一男常務が難しい顔をして座っていてね。「なんの話なんやろう」と思ったら、「勝ってくれるな」と言うのよ。勝てば選手の年棒はアップするし、金がかかるからな。優勝争いの2位が一番理想やったんやろうな。長田代表は「これは金田正泰監督も了解しているから」と言うのよ。
岡田 本社が負けろと?
江夏 カーッとしてな、テーブルをダンッとひっくり返して帰ってきた。それが当時の阪神やったな。(中略)でも「早く勝ちたい」という気持ちがあってカッカしてるから、結局5回で3点取られた。〉
(『なぜ阪神は勝てないのか?──タイガース再建への提言』江夏豊、岡田彰布著 角川書店刊)

 結局、江夏は負けてしまった。

 阪神球団幹部の要請は、厳密に言えば「八百長をやれ」ということだろう。じつにとんでもない話だが、こんなことが実際行なわれていた時代もたしかに存在したのだ。なぜ、そんなことになるかと言えば、前回述べたように阪神タイガースという球団そのものが阪神電鉄の「客寄せパンダ」として作られ、それがゆえに球団幹部が「本社の電鉄では出世できなかった人々」の「天下り」に占められてしまう、という構造がある。それゆえにスポーツのことが本来まったくわからないド素人が、ファンを楽しませ野球界に貢献するという球団本来の目的を忘れ、目先の収益だけにこだわることになるからである。

関連記事

トピックス

歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン