天台宗の僧侶が足掛け14年にわたって尼僧を心理的監禁状態に置き、日常的に性暴力を繰り返していた──そんな衝撃的な“告発”の記者会見があったのは1月31日のこと。会見に臨んだ法名・叡敦(えいちょう)さん(55)は、性行為を強要したとする60代のA住職とその師匠で80代のB大僧正の僧籍を取り上げることを求め、天台宗務庁(滋賀県大津市)に懲戒審理を申し立てた。【前後編の前編】
ダウンタウンの松本人志やサッカー日本代表の伊東純也など権力や地位のある者による性加害を告発するニュースが相次ぐ。同意があったか、なかったかの境界線の見極めは簡単ではなく、ともすれば嘘の告発ではないかとの問題意識も膨らむ。だからこそ訴えの根拠に目を凝らす必要が生じてくる。
本件は伝統宗教を舞台にしたにわかには信じがたい前代未聞の告発だが、筆者は申し立てに添付された「陳述書」を入手した。40ページにわたる叡敦さんの独白をつぶさに読むと、さらに衝撃的な事実が綴られているばかりか、「一方的な主張」と切り捨てられない“物証”も突きつけられていた。
僧侶側の言い分は後述するが、本稿はまず、叡敦さんの陳述書の主張の中から、その訴えの核心をいち早く公開する。
叡敦さんの祖父は香川県で3つの寺の住職を任されるほどの高僧だった。そんな家庭に育った叡敦さんも幼少期から天台信仰に親しんだ。
26歳で結婚したが、その後間もなく、父と母が病気を患う。9年間にわたり介護に身を捧げるも2009年、父に続いて母が亡くなる。母の生前の希望通り、母のいとこでもある大僧正B氏が住職を務める滋賀県のX寺院で供養をした。同年8月のことだ。
その際、B氏から「一番弟子のA氏」が住職をする香川県郊外のY寺を訪ねるよう指示された。B氏は比叡山で7年間の厳しい修行を成し遂げた者だけに許された「北嶺大行満大阿闍梨(ほくれいだいぎょうまんだいあじゃり)」という称号で呼ばれる、現在6人しかいない高僧の1人。叡敦さんも「生き仏」と敬う存在だった。ちなみに阿闍梨とは、サンスクリット語で「他を導く高僧」を意味する。そんなB氏の指示から、不条理が始まった。