世相を映し出す
ドラマならではの大胆な設定で、今の時代に即した価値観を描いたNHKの『大奥』も見逃せない。
「江戸時代、疫病で男性人口が激減して女性将軍が世を統べることになり、世継ぎ作りのため容姿端麗な者が大奥に集められるという男女逆転の設定。本当は好きな人がいるのに多くの男性と関係を持たざるを得ない女性将軍の苦しみが描かれ、NHKなのに艶っぽい絡みのシーンもあります。歴史的な事象もしっかり描かれていて、史実と空想が理想的なマリアージュをしている作品なので、歴史にうるさい人も満足できると思います」
良いドラマは、世相も映し出す。木俣氏が中高年にも勧めるのが、現在放送中の『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(フジテレビ系)。古い常識や偏見で凝り固まった中年男(原田泰造)が主人公だ。
「昨今はパワハラやセクハラをはじめ“昔は許されたけど、今はやってはいけないこと”がどんどん増えています。本作では中年の主人公が若者から色々なことを教わり、考え方をアップデートする。芸人としても活躍する原田さんが、時代の変化についていけずオタオタしているおっさんを、芸人ならではのユーモアを交えて好演しているところも見どころです」
膨大な予算とスケールで様々なジャンルの最先端ドラマが増えるなかでも、ドラマの王道は年齢や性別に関係なく誰が観ても楽しめる作品だろう。『正直不動産』(NHK)にはドラマの醍醐味が詰まっていると木俣氏は言う。
「『家』と『家族』をテーマにしたヒューマンドラマで、2022年に放送されたところ好評を得たため、この1月からシーズン2が始まりました。主人公は嘘つきで悪どいことをして営業成績を上げていたのが、ひょんなことから嘘をつけなくなってしまい正直者になってしまうという少しファンタジーな設定も面白いです」
2022年に放送された『エルピス―希望、あるいは災い―』(フジ系)も観るべき作品だという。
「主人公のアナウンサー(長澤まさみ)が冤罪事件を番組で取り上げようとしたら、局の上層部や政治家の力が絡むなどして次々と壁が立ちふさがります。単純なストーリーではなく、主人公が悩んだ末に上層部に従うなど、組織の中で生きる人間の葛藤や現実がリアルに描かれています。
近年、“政治家や芸能事務所に忖度して番組を作っているのではないか”などテレビはどうあるべきかが問われるなかで、テレビ局がこのようなドラマを作ったというのは意義があると思います。1970年代に観られた骨太なテレビドラマを彷彿とさせます」
今だからこそ観たい、日本を代表するドラマだ。
※週刊ポスト2024年2月9・16日号