インタビューの席に、竹下景子さんは私服姿で現れた。淡いグレーのニットに薔薇色が入った花柄スカーフを上品にあわせ、胸元にはブローチのインコがとまっている。お気に入りだというブローチに話題が及ぶと、「これはインコに見える、うずらの子なんですよ」と声を弾ませた。
「わが家で飼っている、うずらの“ずーちゃん”です。もともとは長男が迎えた子で、今は私がお世話をしています。鳥籠を開けると出てきて、ちょこちょこ後をついてくるのがかわいくて。オスなので卵は産まず、毎朝、夜明けと共に時を告げてくれます。すっかり慣れて目は覚めませんが(笑)、これがもう“ギュイギュイギュイーッ!”とすごい啼き声なんです」
目を輝かせて愛鳥を語る姿はいつまでもみずみずしい。そんな竹下さんは女優として芸歴50年超のキャリアを重ねてきた。
「学生時代の想い出作りができたらと三船プロダクションを訪ねた二十歳のあの日から、気が付けば半世紀……。女子大生タレントとして同じ歳の檀ふみさんと話題になった学生時代をついこの間のように感じるのに、長い年月が経ったものですね。私は“籠の鳥”で終わるのはいやだと思って、とにかく親元を離れたい一心で東京の大学を受験したんです。名古屋から単身上京して、この世界で人としての根っこの部分から育ててもらいました。女優としても、杉村春子さんや八千草薫さんなど、憧れの先輩方とご一緒できた経験はかけがえのない財産となりました」
2023年公開のスタジオジブリ作品『君たちはどう生きるか』では、同じく1950年代生まれの大竹しのぶ、風吹ジュン、阿川佐和子と声優を務めた。
「関係者試写会で集まって“キャー!”なんて喜びあい、そこだけ同窓会みたいでした(笑)。アフレコは別々でしたが、同じシーンで仕事ができたという連帯感がありましたし、作品を観ても同世代だと感じましたね。芸歴も近しく、共に同じ時代を駆け抜けてきた皆さんのご活躍はいつも励みになっています」
70代を迎えた節目とも重なり、近頃は女優としての50年を振り返る機会が度々あったという。
「2023年の秋に出演した舞台『アカシアの雨が降る時』では自分を二十歳の大学生だと思い込む老女の役を演じて、劇中で1970年代初頭へタイムスリップ。お芝居で当時を感じさせるフォークソングを耳にしたら、あの時代の色が鮮明に蘇ってきました。自分もその世代だったので、歌詞に載せた言葉ひとつで瞬時に青春のあの時へ戻るというか、追体験をするというか。舞台をご覧になった同世代や団塊の世代の皆さんも同じ想いだったようです」
だが、個人的にはなつかしさと同時に忸怩たる思いも巡ってきたと語る。
「作品では高野悦子さんの日記『二十歳の原点』が大きなモチーフとして登場し、観劇された方から“高校時代に夢中になって読みました”と感想が寄せられたんです。あの時代を生きた世代のバイブルだったと知って、ハッとして。自分の中高時代は演劇部に夢中で、それ以外のことには恥ずかしいくらい無関心だったんです。そう考えると、あの頃の私の世界は小さかったな、って。そんなふうにも回顧しました」
劇中では歌唱シーンもあり、舞台で生歌を初披露した。
「初めての歌唱指導を受けながら、自主練をして臨みました。カラオケボックスへ通っては自分のパートをひたすら歌い、疲れると米津玄師さんの『地球儀』を入れてパワーをいただいて。歌の力ってすごいですね。米津さんのお顔を見ていると、“私も頑張ろう”って元気がわいてくる。学生時代は御三家の西郷輝彦さんの姿にときめいていましたが、今は米津さんに癒されています」