22才で劇団を立ち上げてから53年。古希を過ぎてなお、新しい芝居のジャンルに初挑戦し続け、“生涯アマチュア”を目指すと言い切る風間杜夫にインタビュー。現在の活動、人生の転機になった出会いや作品について聞いた──。【前後編の前編】
“その人”は、約束より早く、ひとりでふらりと取材場所にやってきた。あいさつを交わすと、「ここでいいですか」と穏やかな様子でソファに座る。聞けば、ここまで地下鉄を乗り継いで来たという。
「ちゃんと着けるか心配した妻が途中までついてきてくれてね。え? 眼鏡で顔を隠さなくても誰にも気づかれませんよ」
とほほ笑む大俳優からは親しみやすさが滲み出ており、記者たちの緊張を一瞬でほぐしてくれた。
この日は正月休み中だったので、休日の過ごし方を聞くと、
「今週は名古屋と秋田で落語の独演会があるんですよ。趣味が仕事のようなもので……」
とはにかむ。話し出すと、独特な甘い声にそこはかとない色気を含む。俳優としての功績が認められ、2023年には旭日小綬章を受章したにもかかわらず、いまなお青年のようなシャイな雰囲気を持ち合わせている……それが、俳優・風間杜夫の第一印象だった。
72才でテント芝居デビュー。常に新しい挑戦を
今年75才になる風間。
「ついに後期高齢者ですよ、年だなって思います。だから健康のために最近は車も使わず、今日みたいに歩くようにしているんです」(風間・以下同)
そんなことを言いつつも、舞台では年齢を感じさせない活躍を見せる。昨年出演した舞台は6作品。隔月で新しい作品に出演していることになる。稽古の時間を考えると、ほぼ休みがない。加えて落語の独演会を30年近く続けている。
ただ多忙なだけではない。常に新しい挑戦を続けており、69才のときには大竹しのぶ主演の『リトル・ナイト・ミュージック』でミュージカルに初出演。72才のときには、『ベンガルの虎』(新宿梁山泊)で“テント芝居”デビューも果たした。
テント芝居とは、1960年代に劇作家で演出家の唐十郎さんが始めた、野外に張ったテントで行われる、いわゆる“アングラ”演劇のひとつ。反権威的で実験的な芝居を特徴としている。
「アングラブームって、ぼくが早稲田大学の学生だった1969年頃が全盛だったんだけど、いま、とてもはまっています。お客さんとの距離が近いし、車の音とか外の雑音が聞こえてくるような中で芝居をするんです。俳優とお客さんの熱気がすごいんですよ。今年も出演させてもらう予定で、とても楽しみ。つかこうへいさんが生きていたら怒られちゃうかもしれないけどね。つかさんは“アングラは見に行くな”って言っていたから」