「ムショ仲間」と私は吹聴している。刑務所ルポを一昨年に綴って以来、塀の中の人と出会う機会が増えた私はいま、刑務所勤務の管理栄養士・黒柳桂子 さん(“柳”の正式な表記は“木へん”に“夕”に“ふしづくり”) から聞く話が面白くて仕方がない。更生過程にある若者と彼女が「食」を通して心を通わせる様子は、さながら母子の物語のようだ──。“オバ記者”こと野原広子が、黒柳さんにインタビューした。【全3回の第1回】
* * *
──受刑者に料理を教えて11年になるそうですね。その体験をまとめた本(『めざせ! ムショラン三ツ星』朝日新聞出版)が好評で、最近いろいろなメディアで黒柳さんの姿を見かけます。
「おかげさまで地元のラジオ局や週刊誌の書評、新聞社からも取材をしていただきました」
──国家公務員として刑務所に勤務している管理栄養士は、全国で20人しかいないと聞きましたが。
「はい。刑務所だけでなく、拘置所にも少年院にも栄養士はいますが、ほとんどが非常勤で、私のような法務省所属の技官栄養士はごくわずか。しかも、男子刑務所に女性が採用されたのは珍しかったみたいです」
──そんな狭き門によく入れましたねぇ。
「私が若くも美しくもなかったからじゃないですか(笑い)。よく、刑務所の食事を『クサいメシ』って言うじゃないですか。採用されてすぐ、『そんなこと絶対に言わせない』と思いました。食べる方もイヤだろうけど、クサいメシなんか誰が作りたいかって!」
──実際に勤めてみていかがですか?
「初めは、刑務所の食事は学校給食のようなものだと思っていたんです。外の調理室でパートのおばちゃんが作ってるものだと。ところが、調理をするのは受刑者で、彼らを指導するのが私と言われてビックリ。刑務所では、炊事・洗濯・草取り・掃除などを受刑者が刑務作業として行っているんですけど、それすら知りませんでした」
──受刑者たちの第一印象は?
「初めて刑務官に連れられて炊場【※1】に行ったときのことは忘れられません。16人の受刑者が調理作業中で、彼らはよそ見をすると刑務官に怒られるから顔を上げないんですけど、顔は伏せていても、32個の目がいっせいに私の方に向くのがわかったんです。で、『今度の栄養士は女か!』と驚いているのが、無言のうちにビシビシ伝わってきました」
【※1:刑務所の調理場は「炊事工場」と呼ばれる。略して「炊場」。7〜8人で100人分の食事を作る】