発生から1か月が経過した能登半島地震だが、現在も約1万5000人が避難生活を送っているとされている。余震への恐怖や今後の生活への不安、そしてつのる寒さに震えながらの避難生活では、女性にかかる負担や苦しみが重くなりがちだ。厳しい現実を、まずは知ってほしい。【前後編の後編。前編から読む】
心臓血管外科が専門で、長年災害後の避難生活についての調査を行っている榛沢和彦さん(新潟大学医歯学総合研究科特任教授)は「日本は避難所後進国です」と厳しく断ずる。
「『災害関連死』を減らすために、いち早く環境の改善に取り組まなければならないはずなのに、日本における避難所の光景は100年前の関東大震災から何も変わっていません。
欧米では災害時の避難所には女性用トイレを男性の3倍設置するなどの基準が法律によって定められており、ベッドと冷暖房が完備された大型テントが家族ごとに割り当てられていたり、子供の遊具やコインランドリーが完備されている避難所もありました。日本は災害大国と自負しているにもかかわらず対策が遅れており、そのしわ寄せがすべて女性にいっている。いまの社会の縮図ともいえます」
安心・防災プランナーで、東日本大震災で2週間の避難所生活を経験した柳原志保さんが強く懸念するのは避難生活が身の危険をはらむことだ。
「避難所にプライバシーがないということは、不審者に自由な往来をさせることと同義です。昼間はまだしも真っ暗になる夜はトイレに立つことすら危険な状態。どこから来た誰とも知れない人がいても、防ぐ手立てがない。私が移住先で体験した熊本地震では『怖い思いをしたから避難所にはいたくない』と打ち明ける若い独身女性もいました」
5年に阪神・淡路大震災を経験し、国内外30か所以上の被災地を訪れた辻さんも性暴力の危険性を訴える。
「男女の幼児から年配の女性まで、避難生活の中で性暴力を受けたという事案は後を絶ちません。“被害に遭うのは若い女性だけ”と思っている人も多いですが、抵抗できない幼い子供や高齢者が狙われたり、時には“従わなければ家族に手を出す”と脅されて、男性が被害に遭うケースもある。
避難生活では、誰もがそうした被害を受ける可能性があることを前提にして行動する必要があります」
“避難所後進国”のわが国で再び大きな震災や自然災害が起きたとき、私たちに生き抜く術はあるのか。
「自分の身を守るいちばんの方法は、積極的にコミュニケーションを取り、“仲間”を作ることです」
そう語るのは、美容コラムニストの近藤須雅子さん。アメリカ国内を移動中の2001年、同時多発テロに遭遇し、空港閉鎖により10日間の避難生活を送った経験を持つ。