「寝ても寝ても疲れが取れない」―そんな自覚症状がある人は要注意。朝起きてから布団に入るまで何気なくとっている行動が、睡眠の質や健康を損なう“浅い睡眠”を招いているかもしれない。
目次
監修・取材
・ちぐさ内科クリニック覚王山院長 近藤千種さん
・睡眠専門医 坪田聡さん
睡眠時間だけではなく深さを測る「睡眠休養感」が重要
国が日本人の“睡眠”に危機感を持っている―昨年12月、厚生労働省が10年ぶりに改訂した「健康づくりのための睡眠ガイド2023(案)」が大きな注目を集めている。
実際、2022年に公表された「健康日本21(第二次)最終評価」によれば、「睡眠による休養を十分にとれていない者の割合」は21.7%(2018年)と悪化の一途を辿っており、特に中高年者の割合が高かった。
これは単に睡眠時間が不足しているという話ではない。ちぐさ内科クリニック覚王山院長の近藤千種さんは、「睡眠の質」こそ大きな問題だと指摘する。
「量も確かに大事ですが、質が伴わなければあがない。いくら長く眠っても“ぐっすり眠れた”“朝スッキリ起きられた”という睡眠の深さを測る指標である『睡眠休養感』が得られなければ健康になれません」(近藤さん・以下同)
30~40代の睡眠の質が低いと認知症リスクが最大2倍に
2022年に国立精神・神経医療研究センターが発表した研究では、睡眠休養感がある場合とない場合を比べると、ない場合は死亡リスクが最大1.38倍も高いという結果が出ている。
「質の低い睡眠が死に直結するわけではありません。しかし、その状態が長く続けば食欲を増進させるホルモンの分泌が増えたり、糖をエネルギーに変換するインスリンの働きが悪くなったりすることで糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病が起こりやすくなる。脳卒中や心筋梗塞といった血管系の病気リスクが上がることも明らかになっています」
加えて米・カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究では、30~40代で睡眠の質が低いと、10年後の認知症リスクが最大2倍になることが判明している。
「各疾患リスクと同じように恐ろしいのは、質の低い睡眠が老化をもたらすということ。深く眠っているとき、人間の体は通称”睡眠ホルモン”と呼ばれる『メラトニン』が多く分泌されますが、実はメラトニンには抗酸化作用がある。そのため眠りが浅くなって分泌量が減ると細胞老化の原因になる酸化物質が除去されなくなり、老化につながる。肌や髪のハリといった外見にも、高血圧やがんリスクの上昇といった体の内側にも影響をもたらします」
カーテンを開けて朝日を浴びる適切なタイミングは?
無意識のうちに体を蝕む「浅い眠り」。引き起こすのは何気ない生活習慣であるケースが少なくない。睡眠改善インストラクターの篠原絵里佳さんが解説する。
「睡眠は年齢によって変化するものです。年齢を重ねると、『早朝覚醒』といい、本来起きたい時刻より早く目覚めることも少なくありません。そのタイミングでカーテンを開けて朝日を浴びると、睡眠の質が低下する可能性があります。
なぜなら、例えば朝6時に起きたいのに、朝4時など早朝に目覚めてしまったとき、そのタイミングで朝日を浴びると、夜6~8時頃に眠気がきて、うたた寝をしてしまい結果的に睡眠の質の低下につながるのです。これは朝日を浴びてから、14~16時間前後に眠気を起こすメラトニンが分泌されることが理由です。特に起きたい時刻よりも早く目覚めてしまうかたは、起きたい時刻になってから、カーテンを開けて朝日を浴びるようにした方がいいでしょう」
浅い睡眠の原因となりうる「食事」と「寝る前の行動」
睡眠専門医の坪田聡さんは、食後すぐの睡眠が睡眠の質を下げるという。
「食後は消化のために胃腸が活発に働き、エネルギーが作られます。しかし深い眠りは体の深部体温が下がることで訪れるため、胃腸が活性化し、体内に熱が生じる食後3時間は睡眠に適しません。また、カフェインの摂取は寝る3時間前までにしましょう」(坪田さん)
食事に加え、寝る前はスマートフォンのようなブルーライトを発する明るい光を浴び、SNSなどを見て脳が興奮するような行為も避けた方がベター。
「推理小説なども脳を興奮させ、目がさえる原因になります」(篠原さん・以下同)
ほかにも“浅い睡眠”の原因となりうる行動をまとめたので、普段の生活と照らし合わせてみてほしい。
睡眠を深くする効果的な「照明」と「入浴」
睡眠を深める方法も知っておきたい。
「強い光はメラトニンの分泌を抑え、睡眠の質を低下させます。そのため夜はメラトニンの分泌を妨げないように、蛍光灯より白熱灯のオレンジの光がおすすめです。明かりの色を変えられる照明器具を使用したり、食後はなるべく明るすぎる光を避け、就寝30分~1時間くらい前から間接照明を使うなどの工夫をするとメラトニンの分泌がよくなります」
また深い眠りにつくためには、深部体温が下がりやすい状況を作るといい。その一環として、寝る1時間~1時間半前に38~40℃くらいのお風呂に入って、一度体温を高め徐々に下げると効果的だ。
30分経っても寝つけないときの秘訣
加えて実践したいのが「入眠ルーティン」。複数あると、脳が睡眠モードに切り替わりやすくなる。
「白湯を飲む、パジャマに着替える、アロマをたく、ハンドクリームを塗るなど決めたことを寝る前に実行する習慣をつけると眠りやすくなります」
布団が冷たいと眠りが妨げられるため、湯たんぽなどで温めておくとよい。
「さらに、布団に入った後、体の一部を温めると入浴と同様の効果が出て眠りやすくなる。ホットアイマスクがおすすめです」
いろいろ試してみても眠れないときは、一度布団から出よう。
「30分経っても寝つけないときは一度布団から出て、眠気が生じるまでゆっくり過ごしましょう。何とか眠ろうとがんばることで、ストレスが生じ、神経が興奮してしまう。そうなればさらに睡眠不足に拍車がかかる悪循環になりかねません」(坪田さん)
重要なのは量より質。眠らなければという思いから解放され、リラックスして眠気を待つ。それが快眠の秘訣なのだ。
※女性セブン2024年2月15日号