AFCアジアカップの準々決勝で日本はイランに敗れ、Jリーグ開幕前年の1992年以降ではワーストタイとなるベスト8に終わった。グループステージ(GS)の2位突破も、結果に大きく響いたのではないか。松木安太郎研究家でライターの岡野誠氏は「GS2戦目のイラク戦で解説の松木さんは的確な指示を繰り返していた。その通りに動いた時、試合が好転していた」と言う。かつてヴェルディ川崎を連覇に導いた名将・松木安太郎氏の指摘とは──。以下、岡野氏が「松木氏の解説」を解説する。
【※注:中継での松木氏の言葉はできるだけ忠実に再現するが、「まあ」「やっぱり」など読みやすさを考えて省略する場合も。分数はテレビ朝日の表示を参考に話し始めた時間を記載】
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「おい!」「よし!」「打て!」「いいボールだ!」
松木安太郎氏は日本代表の試合になると、絶叫しているだけのように思われがちだ。しかし、実際には戦術を提示したり、選手交代について意見も述べたりしている。1月19日、テレビ朝日系で放送されたグループステージのイラク戦を振り返ってみよう。前半、FWフセインに2点を決められ、無得点で折り返した日本は後半0分、DF谷口彰悟に代えてDF冨安健洋を投入。松木氏は、ディフェンス1枚のみの交代に疑問を呈した。
【後半開始前】
松木氏:僕はやっぱりスピードのある選手でね、早い段階で1点をね、取りに行く交代かなとは思ったんですけども。ディフェンスでしたね。
【後半0分52秒 】
松木氏:(イラクの守備は)スピードのある選手に結構手こずってたんでね、その辺をポイントにできるような選手をね、起用するかなという感じはありましたけどね。どこでまあ……どっかでまた代えてくるでしょう。
0対2とリードされたから言っているのではない。松木氏は前半からイラクの弱点を読み、足の速いFW浅野拓磨やMF伊東純也の有効活用を勧めていた。
【前半18分44秒】MF遠藤航がFW浅野へスルーパスも通らず
松木氏:イラクのね、真ん中の4番、5番を考えるとね、スピードのある選手にちょっと手こずる感じがあるんでね、どんどん使っていいと思いますよね。
後半6分には同じ解説の内田篤人氏、実況の吉野真治アナウンサーが並ぶ放送席で、こんなやり取りもあった。
内田氏:打開策が難しいのも、ある程度自分たちから攻撃的に出て、0対3になったら、かなり厳しくなりますんで。そこら辺のバランスも含めたら、いろいろ考えるとね、難しいんですよね。
(中略)
松木氏:ディフェンスライン……もちろん(イラクの)18番(のフセイン)にやられたけども、18番はもういないから(前半限りで交代)。だから、ディフェンスをいじるのも、まあ1つの手かもしれないけども、俺は中盤から前のね、攻撃面での手直しっていうのをね、後半に見たかったなと思いますね、個人的には。
イラク戦で松木氏は11回にわたって「まだ時間はある」関連の発言をしたが、この時は吉野アナが「まだ時間は十分に残されています」と言った後、追随せずに攻撃的な采配を望んでいた。この4分後、足の速い伊東純也が左サイドを突破し、ゴール前の浅野へクロス。イラクが止めに入るも、PKの判定が下された。
松木氏:完全にスピードですよ。
アナ:伊東純也のスピード、そして浅野のスピード。
松木氏:ここがやっぱりね。
アナ:日本の武器がペナルティキックをもたらしました!
結局、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)によってPKは取り消されたが、内田氏が「いい形作れましたから」と振り返ると、松木氏は「スピードだよ」と繰り返し、「だからやっぱり、ポイントはスピードだって。今日はね。後半」と畳み掛けた。