臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップする連載。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、派閥の政治資金パーティー裏金事件に関し行われた、収支報告書の不記載が判明した国会議員への聴取などについて。
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“ドリル優子”という言葉を久方ぶりに聞いた。2014年10月、政治資金収支報告書への虚偽記載が発覚した時、小渕優子選挙対策委員長につけられたあだ名だ。当時経産相だった小渕氏は不祥事の発覚後、東京地検特捜部の家宅捜索前に証拠隠滅のため、事務所にあったパソコンのハードディスクをドリルで破壊した疑いがもたれ、そのように揶揄された。元秘書2人は政治資金法違反で有罪となったが、小渕氏が立件されることはなかった。
その小渕氏が派閥の政治資金パーティーの裏金事件に関して、2月2日から関係議員の聞き取り調査を始めた。党内で党の議員が裏金疑惑に関係する議員らを聴取するというだけで、自民党のやり方に?がつくのに、ここでなぜ小渕氏が?と思うのが普通の感覚だろう。小渕氏もなぜ辞退しないのか、政界を引退した日本維新の会前代表の松井一郎氏は、メディアやSNSを通じて度々「永田町の常識は世間の非常識」と述べていたが、その通りだ。
ところがさらに驚くことが5日に起きた。この事件を徹底的に解明するためアンケート調査が始められたが、その質問がわずか2問なのだ。「派閥による政治資金パーティーに関する全議員調査」という仰々しい表題がついた用紙には、収支報告書への不記載があったか、なかったかに〇をつけ、あれば2018~2022年の隔年で金額を記入しろというたったこれだけ。裏金議員のリストはすでに党内にあるとか、アンケートは野党が要求したとか、予算審議の途中だとか、彼らなりの言い分はあるかもしれないが、こんなアンケートを見せられれば自民党の本気度を疑えと言っているのと同じだ。
岸田文雄首相はことあるごとに「国民の信頼を回復する」と意気込むが、首相も自民党もなぜこんなにも国民の信頼を失墜させ続けるのか。なぜ自分たちの首を絞め続けるようなことをするのか。同志社大学の心理学部教授、中谷内一也氏の研究によると、信頼を決めるとされる要素には「能力認知」「動機づけ認知」、それに加えて「価値共有認知」があるという。