今季の冬ドラマでは、長崎、ウィーンなど、テレビ局の拠点である関東を離れた遠方でロケが行われた作品が多い。なぜ「遠方ロケ」の作品が増えたのか? コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
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今冬ドラマは、ファンタジーラブストーリーの『君が心をくれたから』(フジテレビ系)、父と娘の関係を描いた『春になったら』(カンテレ・フジテレビ系)、学園サスペンスの『マルス-ゼロの革命-』(テレビ朝日系)、医療の『となりのナースエイド』(日本テレビ系)、ミステリーの『グレイトギフト』(テレビ朝日系)、時代劇の『大奥』、タイムスリップコメディの『不適切にもほどがある!』(TBS系)、音楽の『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』(TBS系)など、さまざまなジャンルの作品がそろいました。
ジャンルがわかれたことのメリットは、視聴者が好きなタイプのドラマを選んで楽しめることですが、今冬のラインナップを見ると、「内容に合わせたロケが行われ、映像にこだわった作品が多い」ことに気づかされます。
なかでも目立つのは、関東を離れた遠方ロケ。主なところでは、『君が心をくれたから』の長崎、『大奥』の京都、『新空港占拠』(日本テレビ系)の仙台、『さよならマエストロ』の富士とウィーンなどの遠方でロケが行われ、美しい景色が映るたびに反響の声があがっています。
その他の作品でも、家族ドラマ『春になったら』の第2話・3話で、余命3か月の父とそれを知った娘が伊豆旅行するシーンで下田ロケが行われ、視聴者の感動を誘いました。また、『Eye Love You』(TBS系)で主人公が海での事故をきっかけにテレパスになるシーンで北海道ロケを行うなど、重要なシーンでの遠方ロケが見られます。
なぜ撮影の移動の手間や時間、制作費などの負担が増すにもかかわらず、今冬ドラマはロケにこだわった作品が多いのでしょうか。
美しいロケーションが必要な理由
「今冬ドラマの中で最も映像が美しい作品」と見られているのが、『君が心をくれたから』。
同作は「主人公の逢原雨(永野芽郁)が最愛の人・朝野太陽(山田裕貴)を救うために五感を差し出す」というファンタジー作で、雨が「1つずつ五感が失われる」という悲劇に見舞われながらも太陽への一途な思いを貫く、ピュアで切ない純愛が描かれています。
その「ファンタジー」「悲劇」「純愛」という世界観に合うロケーションが、ノスタルジックかつ異国情緒あふれる美観の街・長崎。大浦天主堂、長崎水辺の森公園、眼鏡橋、グラバー園、結の浜マリンパーク、九十九観光公園、長崎孔子廟、ハウステンボスなど、長崎を代表する観光スポットでロケが行われ、その他でも、坂道、電車、ランタンなどの長崎らしい風景を生かした映像が見られます。
「スタッフが2か月かけて150近くのスポットをめぐってロケハンし、1か月かけて撮影を行った」そうですから、いかに『君が心をくれたから』にとってロケーションが重要なのかがわかるのではないでしょうか。実際、魔法がかかったような幻想的な景色はこの作品の世界観にピッタリであり、雨と太陽の恋模様を盛り上げるとともに、「五感を失う」という重い設定をやわらげる効果も担っています。
同作はオリジナルですが、主に演出家の松山博昭監督がこだわっているのは、「文字の小説や絵の漫画にはない映像作品ならではの美しさをいかに伝えるか」。だからこそ各話の印象的なシーンは必ずと言っていいほど、前述した美しいロケーションを背景に撮られていますし、それは『君が心をくれたから』だけでなく、遠方ロケに挑んでいる他の作品も同様なのです。