2023年8月、第105回全国高校野球選手権大会の開会式で、水分を補給する選手(時事通信フォト)

2023年8月、第105回全国高校野球選手権大会の開会式で、水分を補給する選手(時事通信フォト)

 これがいつの間にか「お客様は神様だから言うことはなんでもきかなければならない」「お客様は神様だから絶対なのですべて従わなければならない」「私はお客様だから神様であり、神様である私の言うことをきいて従うべきだ」「私はお客様という神様」に転じてしまった。

 そんなわけないのは多くが知っている、しかしそれを言い出せない空気があり、それでずっと来た。それ幸いと目的外利用する経営者や自分の気晴らしのために悪用する客もあった。それでずっと、この国は来た。

 もっとも、椅子があってレジ係が座れたり、案内がなくとも自由に水分補給のできたりするチェーン店も現れ始めている。外資系など顕著だが、ごく少数とはいえそうした時代の変化に対応しようとしている萌芽はある。それでも「水を飲む奴はけしからん」とそれに怯える店舗側という構図がいまだ大半だろう。

「お水を飲ませていただきます」

 おかしな話だ。喉が渇いたから水を飲む、ただそれだけの生物として当たり前の行為を咎める空気を変えることもまた失われた30年からの脱却、またそれだけにとどまらないこの国の人間らしい生き方、新しい時代への先鞭となるように思う。

【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)/日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経て、社会問題や社会倫理のルポルタージュを手掛ける。

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