厚生労働省が2008年から続けている「健康のため水を飲もう推進運動」によると、人間が1日に必要とする水は2.5リットル。その水分摂取量が不足すると、さまざまな健康障害が引き起こされることが分かってきたため、仕事や運動中も、こまめに水を飲む習慣が広まりつつある。ところが、一部の人たちによる大きな声の抗議によって、スムーズにすすめられない事態が起きている。人々の生活と社会の変化を記録する作家の日野百草氏が「水分補給タイム」をめぐって露わになった、多様な意見に折り合いをつける難しさについてレポートする。
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「水分補給タイムです」
広い店舗内に流れるアナウンス、関東のスーパーマーケット。本稿では特定されないようアナウンスの言葉を少し変えているが、要するに「このアナウンスで従業員は水を飲んでよし」ということである。
それにしても、この「水を飲む店員はけしからん」という風潮。もう、この国の病理と言ってもいいような気がする。店員としたが運送にせよ、医療関係にせよ口々にエッセンシャルワーカーの方々から「おかしい」と発せられるのがこの「水を飲む店員(ドライバー、医療従事者など)はけしからん」である。
もちろん「水を飲む店員はけしからん」とするのは一部とはいえ客の側である。その延長線上に店舗運営側による「一部の客がうるさいから水はなるべく飲むな」もあるか。厚生労働省は『健康のため水を飲もう』推進運動の中で「『運動中には水を飲まない』などの誤った常識をなくし、正しい健康情報を」としている。
同じくエッセンシャルワーカー、とくに店員に強いられる「ずっと立っていろ」など、この国の何が何でもやめられない「空気」というものがある。もちろん、諸外国にもそれぞれの「やめられない」はあるが、この国の「誤った常識」のひとつがこの「水を飲む店員はけしからん」ということか。
ちなみに本稿、厚労省と同様に便宜上「水」としているが、真水はもちろん経口補水液やスポーツドリンク、お茶など引っくるめての「水」である。各々の趣向や健康状態により摂取内容は変わるだろうが、「私たちが生きていくために『水』は欠くことのできない存在」(厚労省)であることには変わりない。
「水を飲む奴はけしからん」はどこから来ているのか
先のスーパーのレジ、イラストとともにこうもあった。
「従業員も水分補給をさせていただいております」