“コンプライアンス至上主義”が蔓延するテレビ界に、新たな光が射しつつあるのか。テレビ局出身のジャーナリストで上智大学教授の水島宏明氏は、このところ「テレビの自主規制」について番組内でお笑い芸人らが自ら議論する場面が印象的だという。先日放送のバラエティ番組『水曜日のダウンタウン』をきっかけに、簡単には答えの出せない「お笑いと障害」というテーマについて、水島氏が考察する。(以下、番組内容に一部触れる箇所があります)
* * *
TBS系『水曜日のダウンタウン』(以下、『水ダウ』)は2月14日の放送で、1年半前の同番組で吃音当事者らの団体による抗議で炎上してテレビから消えていた“吃音芸人”ことインタレスティングたけし(通称インたけ)を再び登場させた。インたけが先輩芸人たちから励まされながらテレビ復帰を果たしたことが大きな反響を呼んでいる。SNSでの批判を恐れるあまり何かと自主規制や自粛する傾向が目立つテレビで「お笑いと障害」について珍しく真正面から向き合う企画だと好意的な評価も目立っている。なぜ反響が大きかったのだろうか。
放送後の抗議でテレビに“出しづらい芸人”に
吃音という障害を持ちながら「しゃべり方も個性」だとして“無滑舌芸人”を自称するインたけ。自らの滑舌の悪さをネタにして芸を行う。『水ダウ』は芸能人にどっきりカメラを仕掛ける企画が満載の番組だが、2022年7月6日放送回でインたけは先輩芸人から激しく説教されるという設定のどっきりを仕掛けられ、緊張のあまり吃音をふだん以上に出してしまう。
人気番組への初出演でもあり本人は大変満足していたが、放送後、日本吃音協会から「吃音者に対する差別と偏見を助長する」と再発防止を求める抗議文がTBSに寄せられる。ネットニュースにもなってSNSで拡散されたことでインたけにも批判が殺到した。以後、彼はバラエティ番組に呼ばれなくなった。テレビ局にとってインたけは“出しづらい芸人”になってしまった。清掃員のバイトをしながら1本1万円程度で月に3本ほど舞台で芸を披露しながらどうにか食いつなぐ日々だという。
バラエティ番組の「お笑い」が抗議などを受け、テレビ局が自主規制したり自粛したりするケースがこのところ目立つ。インたけを出演させなかった局の判断も自主規制の一種かもしれない。
フジテレビ系『ワイドナショー』では2月11日放送で、「ハゲ漫才」を扱った番組に批判が寄せられたことで、BPO(放送倫理・番組向上機構)が「何らかの話し合いが必要になる可能性」を指摘したことを特集した。“ハゲネタ”で矢面に立ったお笑いコンビ・シシガシラの2人が登場し、これまでテレビで髪の薄さをお笑いにしてきたアンガールズの田中卓志らと議論。フジでもこの5年ほどで「ハゲ」という言葉を「薄毛」に言い換えるよう指示するなど自主規制する現状を芸人たちが暴露した。
一方で局側の悩みも示され、テレビ局にとって“泣く子も黙る”恐いBPOの指摘をあえて「健全なお笑いとは?」を様々な立場から考えるきっかけにしようとする“攻め”の姿勢が目立つ挑戦的な企画だった。
TBSの『水ダウ』も「お笑いと障害」について正面から考える企画だった。出しづらいインたけを再びテレビに登場させ、先輩芸人たちも援護する“攻め”の姿勢が際立っていた。