2020年12月、大統領としてUFO(未確認飛行物体)情報公開の法案に署名したトランプ氏。早くも今年11月の米大統領選で優勢が報じられているが、再登板する可能性を見据えて、米当局の動きが活発化しているという。近年、米国防総省はUFOを「UAP(未確認航空現象)」と再定義。2022年7月には「AARO(全領域異常対策室)」を立ち上げている。こうしたなか独自の動きを見せる国があった──。【前後編の後編。前編を読む】
中国も動き出した
米国に対抗するように宇宙戦略を活発化させているのが中国だ。元毎日新聞中国総局長でジャーナリストの西岡省二氏が解説する。
「2021年6月、香港の英字紙『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』が報じた内容は興味深かった。
2019年に北京で開かれた上級情報技術科学者の会議において、中国人民解放軍のUAP対処システムが明らかにされたことを伝えるものです。同会議では人民解放軍の研究者が『(UAPは)わが国の安全保障に深刻な課題をもたらしている』としたうえで、UAPへの対処に3段階の報告システムがあることを明らかにした。国家のデータベースに集約された情報はAIで分析され、当該物体の『脅威指数』をはじき出す仕組みを整えているとの内容です」
記事の掲載が米国防総省によるUAPの調査報告書公開直前であったことから、西岡氏は「中国政府はUAPを監視・分析できる能力があることを誇示。軍事的に米国をけん制する狙いがあったのでは」と見ている。
中国当局がUAP問題を「国防上の脅威」と捉え始めたのは、1998年10月19日、河北省で起きた「人民解放軍機スクランブル事件」が契機だったと言われる。UAP研究家の天宮清氏が言う。
「同日午後11時ごろ、河北省滄州市上空に現われたUAPを4か所のレーダーが捕捉。UAPはスクランブル発進した人民解放軍機をからかうような動きを繰り返し、一瞬にして高度1500mから2万mに上昇し飛び去った事件がありました」
以後、事態を重視した中国当局は、通常のスクランブル発進とは別の対応マニュアルを作成。収集されたデータは、最上級の軍事機密として扱われ、情報のアクセス権は習近平・国家主席以下、共産党幹部や軍指導部などごく一部に限られているという。