『東京漫才全史』(筑摩選書)の著者・神保喜利彦氏は、現代の東京漫才の祖と言われる東喜代駒師匠が、地元群馬県館林の生まれと知り、親近感を持ったのがきっかけで東京漫才の歴史を調べ始めた。
1000年以上の歴史を持つ祝福芸「萬歳」という源流から、大正初期に関西から漫才が入ってきたときの情勢。関東大震災を経て東京漫才が生まれ、太平洋戦争を乗り越えての復活。一時は時代の寵児となり、その地位を向上させた功労者など、数多くの芸人やその遺族、関係者や研究者を直接訪ねて、400ページ以上の通史を完成させた。
漫才協会外部理事でもある高田文夫氏はその仕事を「おれもいろんな漫才の本を読んできたけど、昭和初期など断片的な時代時代で書いてる人はいるんだよ。でも、通してこうやって書いた人は、今までの歴史上いなかった」と高く評価。
2023年6月より漫才協会会長をつとめるナイツ・塙宣之氏も「最初はすごく昔のことで、知らないことばかりだったけど、読んでいくうちに知っている芸人につながってくるのが面白い」と称賛する。
塙宣之「これを観たら東洋館に行きたくなるように」
そして、ドキュメンタリー映画『漫才協会 THE MOVIE 舞台の上の懲りない面々』は塙氏にとって初の監督作品となる。
「漫才の歴史もちょっとわかりつつも、120組以上を擁する漫才協会の現状とか、実情とか。これを観たら、無性に漫才を見に東洋館へ行きたくなるようにと念じて製作しました」
青空球児・好児、おぼん・こぼんからU字工事、ロケット団、錦鯉など加盟する面々の他、爆笑問題、サンドウィッチマンなど東京漫才のスターも友情出演。
テレビ全盛の時代に、あくまで「舞台」にこだわり続ける面々をカメラが丹念に追う。
「ドキュメンタリーとして撮ったところに価値があると思います。早く劇場で観たい」(神保氏)
ナレーションは小泉今日子とナイツ・土屋伸之、高田氏も題字と「お目付役」で参加している。3月1日(金)より、東京・角川シネマ有楽町他で公開。
【プロフィール】
高田文夫(たかだ・ふみお)/1948年東京都渋谷区生まれ。日本大学芸術学部を卒業すると同時に放送作家に。『ビートたけしのオールナイトニッポン』『オレたちひょうきん族』など数々のヒット番組を生む。落語家としても立川藤志楼を名乗り、1988年に真打昇進。1989年にスタートした『ラジオビバリー昼ズ』(ニッポン放送)は2024年で35周年。
塙宣之(はなわ・のぶゆき)/1978年千葉県生まれ。2000年に土屋伸之とナイツを結成。漫才新人大賞(2003年)、文化庁芸術祭大衆芸能部門優秀賞(2013年)、芸術選奨大衆芸能部門文部科学大臣新人賞(2016年)、浅草芸能大賞大賞(2022年)など受賞多数。2023年6月より漫才協会会長。初監督作『漫才協会 THE MOVIE 舞台の上の懲りない面々』が3月1日(金)より、東京・角川シネマ有楽町他で公開。
神保喜利彦(じんぼ・きりひこ)/1996年群馬県生まれ。國學院大學卒。学生の頃から芸能研究を手掛け、研究サイト『東京漫才のすべて』『上方漫才のすべて』を運営している。2021年より演芸研究誌『藝かいな』を月刊で刊行中。近刊に、漫才の源流から現代まで、数多くの芸人やその遺族、関係者や研究者を直接訪ねて完成した東京漫才の通史『東京漫才全史』(筑摩選書)。
※週刊ポスト2024年3月8・15日号