【週刊ポスト連載・医心伝身】前号(週刊ポスト2024年3月8・15日号)で歯科治療における細菌対策の重要性を伝えたが、もう一つ、大切な治療の柱は機能回復だ。前歯がすり減る、顎関節が痛いなどの症状の大半は噛み合わせ(咬合)の悪さが原因である。コロナ禍でのマスク生活で歯列矯正が流行したが、歯並びがよくなっても咬合がくるうと噛めなくなることも。咬合機能の回復は関節と筋肉、歯を含めた総合的な口腔論理に基づく治療が必要となる。
今や歯科分野はデジタル化が進み、インプラント治療の場合ではCT撮影でインプラント埋入位置を決め、上部構造(かぶせる歯)を3Dプリンターにより製造している。
その一方、咬合治療は多くの方法が実践されてはいるが、適切な治療法が行なわれているとは言い難い。
前号に引き続き、波多野歯科医院(さいたま市浦和区)の波多野尚樹院長に聞いた。
「奥歯が抜けたので、インプラントを入れたいと来院される患者さんがいます。興味深いのは、そういった患者さんには共通の特徴的な欠損形状が認められること。例えば健康的な前歯群なのに奥歯がボロボロだったり。他にも上下の前歯が正しく咬合していないせいか、摩耗して歯並びが悪いなどの特徴が見受けられます。
それらは咬合が正常でないのが原因です。そこで私は咬合治療で世界的に認知された、ドーソンシステムを作り上げたペトロ・E・ドーソン医師から直接学び、適切な機能回復治療を実施しています」
理想の歯並びは顎関節が安定した位置で口を閉じた際、全ての歯が同時に咬合し、その状態で顎を横にずらすと上下の前歯だけが接触しながら滑走し、なおかつ奥歯が接していない状態だという。
しかし、来院の患者の中には顎関節を安定した位置で閉鎖するよう調整しても咬合ができない症例が見られるそうだ。それ以外にも下顎の前歯が正しい位置になく、閉鎖しても上下の前歯の間に隙間ができてしまい、結局は上下の犬歯が機能していないことで、強く歯ぎしりする症例も多い。