新年度を迎えるにあたり、会社の健康診断や自治体のがん検診を受ける人は多いだろう。しかし、検査自体が時代遅れになっているケースもある。検査に関するアップデートすべき知識を紹介する。【前後編の後編。前編を読む】
企業の健康診断では心電図や血圧の検査が義務づけられている一方、「がん検診」は義務ではない。しかし、がんはとりわけ早期発見が推奨されるため、高いお金を出して人間ドックを受け、がんを見つけ出そうとする人もいる。だが、「高いから」「きれいな施設だから」という理由で、すすめられた検査を安直に受けるべきではない。4年前に受けたPET検査を後悔しているのは、都内在住の会社員・Mさん(40才/女性)だ。
「乳がんになる芸能人のニュースも多かったし、心配になって受けることにしたんです。すると小さな乳がんの疑いがある腫瘍が見つかったと言われて、針を刺して組織診検査をすることになりました。検査はとんでもなく痛いし、まだ子供も幼いから結果が出るまで不安で……。最終的に乳がんではなかったのですが、もうあんな思いはしたくありません」
医療経済ジャーナリストの室井一辰さんは、「PET検査は、デメリットが大きい」と指摘する。
「アメリカ核医学会は“PET検査は健康な人のがん検診に使ってはいけない”と断言しています。放射線被ばくに加えて、病気ではないのに病気だと診断される『偽陽性』となる可能性があり、不必要な検査や治療につながるからです。
一方で乳がんのマンモグラフィーは、40〜74才の女性は2年に1回受けることが推奨されています。ただしそれ以外の年齢層の女性は、偽陽性になりやすいなどデメリットがメリットを上回ります」(室井さん)
すい臓がんや胆のうがんをピンポイントにMRIで調べられる「MRCP検査」を行う施設も増えた。早期発見が困難ながんだけに調べたくなるが、産業医の森勇磨さんは有効性を否定する。
「残念ながら早期発見・治療につながるエビデンスがないので、人間ドックで受けることは推奨しません」
新潟大学名誉教授の岡田正彦さんが警鐘を鳴らすのは、「腫瘍マーカー」だ。数千円から1万円程度で受けられるが、気軽に手を出すべきではない。
「がんになると血液に含まれる異常なたんぱく質などの値が上がることを利用した検査ですが、良性の腫瘍や肝炎、喫煙などに反応するケースもある。がんと診断された人が治療の効果や再発の有無を調べるためであれば有用ですが、健康な人が受ければ、がんでもないのに精密検査や手術を受けさせられることになりかねません」(岡田さん)