「細かい話なんですが、例えば、前方が赤信号で、目の前に車が一台入れるくらいのスペースがあったとします。そこに左から車道に入ってこようとする車がいれば、普通は譲りますよね?ところが、妻はゆっくり前進して場所を譲らない。だから、左から入ってこようとする車は車線に合流できず、後続車も来るから結局待たなければならず、ドライバーが車の中で妻に向かって何か文句を言っている様子まで映っていました。こういう、明確な形で教習所では習わないマナーとか、ドライバー同士の阿吽の呼吸というのが、妻には理解できない。結果、知らないうちに相手を怒らせるのですが、本人は被害に遭った、としか思っていません」(松井さん)
松井さんの妻は、日常生活の中では決して無配慮な性格ではない。ただ、いざ車の運転となると、一見冷静には見えても、前方に集中しすぎて左右や後方にまで気を配ることができないのだ。
「妻にそれを指摘しても、違反ではないから相手がイラついても仕方ない、というだけで、改善しようという気持ちはないようです。つい先日も、心配で妻が運転する車に乗っていたところ、渋滞中にもかかわらず、対向車線からやってきた右折車の邪魔になるような場所に停車し、クラクションを鳴らされていました。配慮した方が良いといっても全く聞いてくれず、ケンカになりますし」(松井さん)
松井さんは、取り付けたドラレコが前後しか録画できないタイプのものだったら、妻が煽られやすい理由がわからなかったかもしれない、と力無く苦笑する。
今や、新車であればほとんどの車に、古い車であっても、少なくとも半分以上の車にドラレコが装着されているだろう。そのおかげで、悲惨な事故の原因が明らかになったり危険な煽り運転の実態が世に周知されるようになったのは事実だ。しかし、いくらドラレコがあったところで、他者への配慮が足りなければトラブルに巻き込まれる確率は高まるだろうし、前段で紹介したように、警察からさえ苦言を呈され、不利な状況に追い込まれてしまう。ドラレコがあるから安心、ではない。ひょっとしたら、新しい運転アシスト機能で下手な運転を補う未来がくるのかもしれない。だが今のところは、結局、ドライバーが思いやりのある運転を心がけることが重要なのだ。