医療技術の発達によって私たちの寿命は飛躍的に延び、いまや100才を超えて生きる人は珍しくない。長寿の末にたどり着いた終着点で「私たちはどう死ぬか」を個々人が考える時代に突入している。最期を迎えるときの一大テーマである「延命」について、名医たちの本音から「死に方」、そして「生き方」のヒントが見えてきた。【全4回の第1回】
「延命治療」の定義は病気・病状・年齢によってさまざま
医療の進歩と健康情報の拡散により「死に方」を選べる現在、昔のように病院で死ぬのではなく、自宅での看取りを望む人も増えた。寝たきりにならず、ピンピンコロリで逝きたいと願う人も多い。自らの最期を考えるうえで、大きなテーマとなるのが「延命治療」だ。
かつては、病気になれば医師による診断のもと治療が施され、手の尽くしようがなくなったときが人生の幕を閉じる瞬間だった。しかし、医療の進歩は皮肉にも“命を延ばす”ことを可能にし、“管につながれた状態”で、日々を生きる人が増えるようになる。それが果たしてどれだけ本人および家族のためなのかと考えられるようになったのは、おおよそ2000年以降だ。
厚生労働省が2007年5月に初の指針となる「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」をまとめたのを皮切りに、同年、日本救急医学会は救急医療現場で終末期の延命治療を中止する手順を、2012年には日本老年医学会が人工栄養、水分補給の中断を含む指針をまとめた。
誰しもが受ける可能性のある延命治療だが、その是非は常に問われ続けている。別掲のグラフのように、「過度な延命治療は避けたい」という意識が高まっているなか、人生の最期を最もよく知る名医たちの本音は一律に「NO」だ。しかし、単純に「延命治療は受けない」とひと言で表せない問題をいくつもはらんでいる。
そもそも延命治療とは何か。一般的には病気や老衰などで回復の見込みがない患者に対し、少しでも命を延ばすために行う治療のことで、「人工栄養」「人工呼吸」「人工透析」などが主な処置とされるが、その定義は極めて曖昧だ。永寿総合病院がん診療支援・緩和ケアセンター長で緩和ケア医の廣橋猛さんが解説する。
「何を延命治療と考えるかは、病気によっても違うし、実は医師の中でもそれぞれ異なります。患者さんでも、意識がなくなったときに受けるのが延命治療とイメージする人もいれば、つらく苦しい抗がん剤治療がそうだと考える人もいるでしょう」