ライフ

久坂部羊さん、中山祐次郎さん、鎌田實さん“現役医師作家”が語る延命治療の現実「過大な期待は捨てることが肝心」

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

 いまや100才を超えて生きる人が珍しくなくなり、「どう死ぬか」を一人ひとりが考える時代に突入している。最期を迎えるときの一大テーマである「延命」について、著名人たちはどう考えているのか? 医師と作家という2つの顔を持つ3氏が、それぞれの見解を語る。【全4回の第3回。第1回を読む

 まず、1人目は医師で作家の久坂部羊さんだ。久坂部さんは、「延命治療には非常に悲惨な結果もある」と指摘する。

「やはり死にたくはないから、治る可能性があれば延命治療を受けます。ただし、可能性が高くないと判断したら受けません。

 若い頃は外科医として、可能な範囲の治療を最後まで患者に続けていました。しかしその結果、出血やむくみ、黄疸が出て、生きたままの人体が腐るようになっても治療を止められず、悲惨な状態になった患者をたくさん見ました。延命治療を施すと人生の最期にふさわしくない凄惨な死を迎えるケースが多く、本人と家族が悔いを残さないためにも無駄な治療はやるべきではありません。無理やり食べさせ、点滴し、酸素マスクをして数日や1週間寿命が延びても、本人が苦しむだけなのです。

 多くの人がイメージする延命治療は、死を少しでも遠ざけ、あわよくば回避しようとする試みです。でもそれは無理な相談で、多くの患者は延命治療によって苦しみます。特に高齢者はがんや肺炎、糖尿病や心臓病などの最後の段階のあらゆる医療が、望ましくない延命治療になるリスクが高い。

 高齢で寿命が近づいた患者に対して医療は“無力”です。それは当然の話ですが、多くの人は延命治療に幻想に近い期待を抱いて現実を見ようとしません。一部の医者も自分が無力であることを認めず、“やったふり”の医療をする。延命治療への過大な期待を捨てることがまず肝心です。

 私の父は認知症で寝たきりでしたが延命治療を望まず、自宅で看取りました。母も祖父母もみな家で死を迎えています。その経験上、過度な医療を受けずに死ぬことが最も穏やかで好ましい死につながると確信しているので、私自身も最期に無駄な治療を受けるつもりはありません」(久坂部さん)

医療者の常識では無理な延命治療=不幸

 2人目は湘南東部総合病院外科医で作家の中山祐次郎さんだ。中山さんは、無理な延命治療は希望しないという。

「そもそも『延命治療』は正式な医学用語ではありません。狭義には、“治る見込みがなく、病状が悪化して身体への負担が大きい医療”のことで、具体的には呼吸や心臓が止まったときに行う『心臓マッサージ』『気管内挿管と人工呼吸器接続』『強心剤の投与』などを指します。要は“無理な蘇生行為”のことですね。

 私はそうした延命治療を希望しません。苦痛が激しいうえに実際の延命効果はそれほどなく、特に高齢の持病持ちのかたが急変した際、上記の延命治療をしても本人のメリットは1つもないからです。命は助かっても意識は戻らず苦痛を強いられるなど、かなり厳しい未来が待っています。

 医療者の常識でも、狭義の延命は“患者を不幸せにする医療”とされますが、家族が『1秒でも長く生きてほしい』と延命を望むケースは後を絶ちません。心情は理解しますが本人が苦しむばかりなので、『もう延命治療はしなくていいですね』と医師の方から家族に伝えることもあります。

 一方で延命治療にはもう少し広い意味もあります。たとえば、治癒がほぼ見込めないステージIVのがん患者に対し、手術や抗がん剤治療を行うことは広義の延命治療に当たります。私は大腸がんの専門医ですが、大腸がんの末期は肝臓や肺などに転移して体力を失い体調が悪化します。手術は難しく抗がん剤治療になりますが、副作用がある苦しい治療をどこまで頑張って続けるのか。

 そうした判断はケースバイケースであり、広義の延命治療をやめるタイミングは本人や家族、主治医などが話し合って見出していくことが必要だと思います」(中山さん)

関連キーワード

関連記事

トピックス

『傷だらけの天使』出演当時を振り返る水谷豊
【放送から50年】水谷豊が語る『傷だらけの天使』 リーゼントにこだわった理由と独特の口調「アニキ~」の原点
週刊ポスト
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
《英国史上最悪のレイプ犯の衝撃》中国人留学生容疑者の素顔と卑劣な犯行手口「アプリで自室に呼び危険な薬を酒に混ぜ…」「“性犯罪 の記念品”を所持」 
NEWSポストセブン
原監督も心配する中居正広(写真は2021年)
「落ち着くことはないでしょ」中居正広氏の実兄が現在の心境を吐露「全く連絡取っていない」「そっとしておくのも優しさ」
NEWSポストセブン
フジテレビの第三者委員会からヒアリングの打診があった石橋貴明
《離婚後も“石橋姓”名乗る鈴木保奈美の沈黙》セクハラ騒動の石橋貴明と“スープも冷めない距離”で生活する元夫婦の関係「何とかなるさっていう人でいたい」
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
〈山口組分裂抗争終結〉「体調が悪かろうが這ってでも来い」直参組長への“異例の招集状” 司忍組長を悩ます「七代目体制」
NEWSポストセブン
休養を発表した中居正広
【独自】「ありえないよ…」中居正広氏の実兄が激白した“性暴力認定”への思い「母親が電話しても連絡が返ってこない」
NEWSポストセブン
筑波大学の入学式に出席された悠仁さま(時事通信フォト)
「うなぎパイ渡せた!」悠仁さまに筑波大の学生らが“地元銘菓を渡すブーム”…実際に手渡された食品はどうなる
NEWSポストセブン
新年度も順調に仕事を増やし続けている森香澄
《各方面から引っ張りだこ》森香澄、“あざとかわいい”だけじゃない「実はすごいアナウンス力」、「SNSの使い方はピカイチ」
NEWSポストセブン
4月7日、天皇皇后両陛下は硫黄島へと出発された(撮影/JMPA)
雅子さま、大阪・沖縄・広島・長崎・モンゴルへのご公務で多忙な日々が続く 重大な懸念事項は、硫黄島訪問の強行日程の影響
女性セブン
女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された(左/時事通信フォト)
広末涼子の父親「話すことはありません…」 ふるさと・高知の地元住民からも落胆の声「朝ドラ『あんぱん』に水を差された」
NEWSポストセブン
SNSで出回る“セルフレジに硬貨を大量投入”動画(写真/イメージマート)
《コンビニ・イオン・スシローなどで撮影》セルフレジに“硬貨を大量投入”動画がSNSで出回る 悪ふざけなら「偽計業務妨害罪に該当する可能性がある」と弁護士が指摘 
NEWSポストセブン
都内にある広末涼子容疑者の自宅に、静岡県警の家宅捜査が入った
《ガサ入れでミカン箱大の押収品》広末涼子の同乗マネが重傷で捜索令状は「危険運転致傷」容疑…「懲役12年以下」の重い罰則も 広末は事故前に“多くの処方薬を服用”と発信
NEWSポストセブン