お茶の間に響く「あたしゃね……」という少しませたような、それでいて憎めない、愛らしさ満点の声。誰もが一度は耳にしたことがある日本一有名な小学3年生の声が、もうすぐ聞けなくなる。「2代目まる子」を巡り、さまざまな思惑が交差して──。
声優なくしてアニメは語れない。「唯一無二の主人公の声」となればなおさらである。声優のTARAKOさん(享年63)が3月4日に亡くなったことが、9日、明らかになった。
実に34年という長きにわたり、人気アニメ『ちびまる子ちゃん』(フジテレビ系)のまる子役を務めた。
「TARAKOさんが最後に収録したのは“『まる子、水の味がわかる?』の巻”で、3月24日に放送予定です。今後も番組は続きますが、彼女の後任選びは確実に難航するでしょう。そのため当面は過去の作品を再放送するそうです」(テレビ局関係者)
TARAKOさんの喪失はあまりにも大きい。番組サイドは、悲しみと同時に彼女の後任選びにも奔走しなければならない。それは、これまで長寿アニメを幾度となく悩ませてきた「難題」でもある。
TARAKOさんは“永遠の小学3年生”のイメージを守るために本名を非公開にし、プライベートも明かさなかった。所属事務所の発表によれば、今年に入って彼女は病と闘いながら仕事を続けていたという。
「入院中も『病棟からでも収録を続けたい』と意欲的で、まる子を演じることへの強い思いが感じられました。一方で、声優には代役がいないため、どんなにつらくても休めないという現実もありました」(前出・テレビ局関係者)
『ちびまる子ちゃん』の放送回数は間もなく1600回を迎える。その間、視聴者はずっと変わらない声を耳にしてきた。
「多くの視聴者にとって、まる子イコールTARAKOさんの独特な声です。それが別人になるのなら、違和感を覚える人も多いでしょう。ましてや国民的アニメですから、後任へのプレッシャーは相当なもの。声優にとって、まる子の声は〝演じ難い〟ものなんです」(前出・テレビ局関係者)
長寿アニメにおいて、声優交代は試行錯誤が重ねられてきた歴史がある。今年で放送55年目の『サザエさん』(フジテレビ系)では、サザエ役の加藤みどり(84才)を除く磯野家全員の声が変わっている。
「2019年にマスオ役が2代目の増岡弘さん(享年83)から田中秀幸さん(73才)に交代したときは、声のイメージを一新。落ち着いたトーンの声になり、『キャラが違う』『誰かわからなかった』と視聴者から戸惑いの声が相次ぎました」(別のテレビ局関係者)
2023年2月、タラちゃん役の貴家堂子さん(享年87)が急逝し、愛河里花子(56才)が後を継いだときには、オーディションが開かれ、制作サイドは「そっくりな声」を求めたという。
「愛河さんは貴家さんの声を細かく研究。やがて下顎を引き、舌を口内の天井に当てて発音するとタラちゃんに近づくことに気づいたそうなんです。貴家さんの声と録音した自分の声を聴き比べながら、一音ずつ発音の仕方を見つけ、見事に違和感のない“2代目タラオ”を演じています」(芸能関係者)
異例の抜擢で成功した例もある。アニメ『ルパン三世』でルパン三世役を務めていた山田康雄さん(享年62)が1995年2月に脳出血で倒れ、意識不明の重体となった。同年4月公開の映画『ルパン三世 くたばれ!ノストラダムス』はまだ収録前。急遽、代役に選ばれたのは、ものまねタレントの栗田貫一(66才)だった。
「ルパンのものまねがうまいことで知られていた栗田さんですが、声優はやったことがなく、不安を抱えながらの演技でした。この作品限りのはずが、意識不明だった山田さんが映画公開直前に他界し、彼の遺志を継ぐという思いで現在までルパン役を続けています。ただ、何年経ってもベースにあるのは山田さんのルパン。『不~二子ちゃ~ん』のイントネーションは山田さんの言い方をそっくりそのまま、まねしているとか」(前出・芸能関係者)