3月17日に棋王戦を初防衛し、タイトル戦の連覇記録を21に伸ばした藤井聡太八冠(21)が2023年度の全対局を終えた。年間勝率は8割5分2厘9毛。歴代2位の驚異的な数字ながらも、中原誠十六世名人の歴代最高記録(8割5分4厘5毛)に惜しくも届かなかった。棋王戦の前に収録され、同日に放送されたNHK杯決勝で佐々木勇気八段(29)に逆転負けを喫したことが響いた。
佐々木八段といえば2017年、藤井八冠(当時四段)のデビュー30連勝をはばみ、プロ初黒星をつけた相手でもあった。6年半ぶりの対藤井戦勝利で、新聞の見出しに“藤井キラー”の文字が躍ったが、その佐々木八段はどのような棋士なのか。将棋ライターの松本博文氏が話す。
「佐々木さんは石田和雄九段の門下生です。5歳の時に石田先生が指導する柏将棋センターの門を叩いた。石田先生は現役時、筋のよい本格正統派の棋士として知られていました。その師匠が、もともと抜群の才能を持っていた佐々木さんを手塩にかけて育てた。佐々木さんは小学4年生で小学生名人戦を優勝。これは渡辺明現九段以来、10年ぶり、史上2人目の快挙でした。石田先生はいろんな子供たちを見てきた中で、こんなに才能がある子は見たことがないと思ったそうです。天才が多い将棋界のなかでもずば抜けた天才のひとりでした」
しかし、2010年10月に高校1年生でプロデビューして次世代のタイトルホルダーとして注目を集めたものの、なかなかタイトル獲得や棋戦優勝には届かなかった。今回のNHK杯制覇が、全棋士参加の一般棋戦での初優勝だ。松本氏が続ける。
「石田先生は、佐々木さんが羽生善治現九段のように、多くのタイトルを取るのではないかと期待されていました。しかし残念ながら現在までのところ、そうはなっていません。今年度から棋界トップ10の順位戦A級に入りましたが、その抜群の才能を考えれば『ようやくここまで来たか』という印象を持つ将棋ファンも多いかもしれません。藤井八冠に勝つだけの実力がありながら、自分より格下の棋士にスコンと負けることもある。これまでタイトル戦に挑戦できなかったのも、そういう“むらっけ”が原因だったかもしれません」