ロシアのプーチン大統領が90%近い得票率で5選を果たした。2036年まで続投が可能となったプーチン氏の野望は何か。同国に詳しい軍事評論家で、東京大学先端科学技術研究センターの小泉悠・准教授に訊いた。
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今回の選挙は、2000年の初当選以来、過去4回の選挙と比べても全くの無風に終わりました。
反戦的な候補・ナデジディンの出馬は認められなかったが、それをもって「プーチンが無理矢理に民意を捻じ曲げた」と言うのは早計で、多くのロシア人が不満こそあれプーチンを支持していることは厳然たる事実です。
背景にはロシア経済の好調があります。西側の経済制裁が直撃した2022年はマイナス成長でしたが、2023年は中国やインドなど制裁に加わらなかった国への輸出や、国内の軍需産業の生産が増えてプラス成長に転じました。
選挙を控えた今年2月、2時間にわたる教書演説でプーチンが多くの時間を費やしたのは、国民の生活関連の事柄でした。税制の近代化や年金の確実な支給を唱え、改革を実行できるという信頼性をアピールした。ウクライナ戦争の長期化があるなかでも、生活がよくなるという実感が多くの票に結びついたのです。
選挙前には反体制派指導者・ナワリヌイが獄中死し、追悼に訪れた市民が拘束されました。彼は一定の支持を集めたが、他方で「プーチン後」のロシア像を提示したわけではなかった。いわば“壊し屋”で、プーチンに代わる国家像を語れる人はいないという現実もある。
この地には同じ民族同士が争う動乱を重ねた歴史があり、理想を語るリベラル派に政治を委ねた1990年代には経済が崩壊した記憶もある。「多少強権的でも、頼れる指導者でないと」という意識はあるはずです。
今回の勝利でプーチンは2期12年、2036年まで在任が可能となった。独裁者スターリンは31年間ソ連トップの座に君臨したが、その執政期間を超える事実上の「終身独裁」の信任を国民から得た選挙だったと言えます。