もしも、今の時代に結婚していたら、「仕事をやめてはいなかった」と振り返る松本さん。当時と今とでは、「結婚」「女性」「仕事」を囲む世の中の空気に、どのような違いがあったのだろうか。子育てがひと段落し、今後の人生も考える年齢となり、勇気をもって踏み出したネクストステップ。少しの不安を抱きながらも、新しい環境に飛び込む姿は、「アイドル・松本典子」の頃からなにひとつ変わっていないのかもしれない。【全3回の第3回。第1回から読む】
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──アイドル歌手なのにコメディエンヌとして活躍されたり、元プロ野球選手・笘篠賢治さんと結婚されたりと、ファンや世間を驚かせてきた松本さんですが、結婚を機に24歳で芸能活動から身を引いた点もやはり意外なものでした。
「当時は、『結婚したら女性は家庭に入るもの』といった考えが一般的で、特に『スポーツ選手と結婚=女性は仕事をせずに家庭を守る』という暗黙の了解みたいな空気がありました。今、野球選手とタレントの奥さんがツーショットをインスタなどに上げると好意的な反応が集まりますが、私たちの頃ならそれもNGでしたね。応援するために球場で観戦しただけでも、『食事の準備は? 試合後に帰ったらすぐに食べられるよう、用意して待っておくべきだ』と言われてしまうような時代。今では考えられないですよね」
──活動休止は、ご自身の強い希望だったわけではないんですね。
「もちろん、私自身『結婚したら、家庭が第一』と考えていましたし、当時の事務所の社長さんも『じゃあ、家庭のことを一生懸命やりなさい。仕事は落ち着いてから、できるときにやればいいじゃないか』と理解してくださいました。仕事を続ける道もあったのかもしれませんが、私自身があまり器用なタイプではないので、おそらくうまくできていなかったと思います」
──今の時代にご結婚されていたら、お仕事はどうされていましたか。
「そうですね……たぶん、やめてはいなかったんじゃないかな。やっぱり、長いブランクがあると、また出ていくのがちょっと怖くなってしまう。一歩踏み出すのに、とても勇気がいる。そういった意味でも、年に数本でもいいから仕事を続けていた方がよかったかなとは思いますね」
──アイドルから専業主婦に。真逆のような環境変化ですが、ご苦労はなかったですか?
「自分の母親というお手本がいますし、主婦になってすごく苦労したということはなかったと思います。ただ、主人が単身赴任で広島(編注:夫の笘篠さんは1998年にヤクルトから広島カープに移籍)へ行っていた時期は、さすがに大変でした。上の子が3歳、下の子が1歳のときだったので、買い物へ行くだけでも大仕事。小さな子どもは病気もしますし、今振り返ってもどうやってこなしていたんだろうと思うぐらい(笑)」
──お子さんは、男の子3人ですよね。
「はい。上の2人はもう社会人です。一番下は少し年が離れていて、今は大学生。3人とも特別に厳しく育てたということはありませんが、大きな反抗期などもなく、母親の私が不思議に思うぐらいちゃんと育ってくれたなと思います」
──松本さんがお子さんを厳しく叱っている姿は、なかなか想像できません(笑)。
「挨拶や時間を守るといった基本的なことぐらいです。怒るときは怒っているつもりなんですけど、声を荒らげたりするタイプではないので、あまり怖くはないようですね。子どもたちも『は~い』と返事をして、逃げて行っちゃう。ただ、『笘篠って名前は珍しいから、あなたたちがなにか悪さをしたら、すぐにバレて世の中に出ちゃうよ。気をつけてね』というプレッシャーは、常にかけていました(笑)」