センバツ甲子園で3月28日、準々決勝に臨む石川・星稜高校。春夏通算38回の甲子園出場を数えるが、今大会のアルプススタンドには同校野球部の長い歴史のなかで初めてとなる「女子マネージャー」の姿があった。鈴木紗弥さん。彼女の熱意が、伝統ある名門校を新たな試みへと動かしたのだった──。
厳冬の金沢にしてはやけに温かかった2月のある日、星稜高校のグラウンドを訪ねるとちょうど紅白戦が始まったばかりだった。
山下智将監督となってからは初めてとはいえ、監督の実父で松井秀喜氏らを育てた山下智茂監督の時代や林和成監督の時代に同校のグラウンドには幾度も足を運んできた。が、何やらいつもと様子が違うように感じられた。
その違和感の正体はすぐに判明した。グラウンドの脇を忙しく動き回る女子生徒がいたのだ。同校の野球部では伝統的に男子マネージャーが選手と指導陣とのパイプ役を担っており、いわば“女人禁制”だったはず。紅白戦が終わるのを待って山下監督に訊ねた。
「これまで紅白戦や練習試合の時に、アナウンスをしてくれる野球放送部というのがあり、マネージャーをやりたいという女子生徒にはそちらを勧めていました。ところが、女子マネージャーを採用していないうちの伝統を知りながら、どうしてもマネージャーをやりたいという女子生徒が入学してきたんです」