1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏は、2022年3月から調教師として活動中だ。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、海外競馬への参戦についてお届けする。
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3月30日(土)はアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで5つのGIレースが施行されるワールドカップデーで、日本馬はGIIも含めれば20頭以上が出走する予定です。馬券も発売され、グリーンチャンネルでの中継もあるので、土曜の夜は眠れなくなりますね。
近年日本馬が香港やドバイのレースに参戦するのは当たり前になりましたが、それはまず高額賞金が魅力だからです。
日本の競馬の賞金は世界一といわれていますが、それは下級条件のクラスを含めすべてのレースにわたって平均的に高いということ。たとえば日本では3勝クラスの特別レースの1着賞金が1840万円ですが、欧米ではGIでも2000万円以下というレースがあります。
GIになると日本ではほとんどが1億円以上、ジャパンカップや有馬記念は5億円ですが、アラブ諸国で行なわれるレースはさらにその上をいきます。円安の影響もありますが、2月に行なわれたサウジカップでは約15億円でしたし、今週のドバイワールドカップ(ダート2000m)でも約10億円、ドバイシーマクラシック(芝2410m)でも5億円以上、ドバイターフ(1800m)でも4億円以上です。
とくに1頭が何口にも分かれているクラブの馬は、海外のビッグレースを勝てば会員さんの満足度は高くなりますし、クラブ運営側としては、この後に控えている1歳馬募集などのPRにもつながるでしょう。
ただし単に賞金を稼ぎに行くというだけではありません。いまや日本の競馬は海外で強さを見せることが、生産者にとってビジネスになっている。「日本馬強いですよ、どうぞ買いにきてください」ということです。ディープインパクト産駒はもういないけれど、「ディープインパクトの血を引いた種牡馬や繁殖牝馬は何頭もいます」と。その代表はもちろん社台グループですが、日高地方の牧場でも海外のバイヤーを強く意識しています。