140人以上が死亡したロシア・モスクワでの銃乱射テロ。「イスラム国(IS)」が犯行声明を出す一方、プーチン大統領はウクライナの関与を示唆し、ゼレンスキー大統領が全面否定する展開となっている。そうしたなか、水面下で危機的状況が迫っていると警告するのは、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏だ。一体、何が起きようとしているのか。
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テロは3月22日、モスクワ郊外のコンサート会場で起きた。自動小銃を乱射した男たちは、建物に火を放って逃げた。3日後の対策会議の場でプーチン大統領は、テロはイスラム過激派によるものだとしつつ、「誰がそれを依頼したかに関心がある」と述べて、客観的な捜査を指示した。
と同時に、ロシアの民間インフラなどへのウクライナの無差別攻撃を挙げ、「血なまぐさい脅迫行為(今回のテロ)は、この一連の流れに極めて論理的に適合している」と、ゼレンスキー政権の関与を匂わせた。
怪情報や的外れな分析も飛び交っている。
「ロシアが自作自演で起こしたテロだ」と語る“専門家”もいるが、根拠が示されていない。
また「事前にテロの兆候を掴んだアメリカが情報提供をしたのに、ロシアが無視した」という報道もあるが、これも事実と異なる。事件の2週間前の報道を引用しよう。
〈在ロシア米大使館は7日夜、「過激派がモスクワでコンサートを含む大規模な集会を標的にする差し迫った計画がある」として、警戒情報を出した。発表から48時間の9日夜までは、人混みを避けるよう自国民に呼び掛けている。(中略)ロシア・メディアも情報を一斉に報じた〉(3月8日、時事通信配信)
最後の一文が示す通り、米国の警告はロシアで報じられた。したがって政府は無視していない。
テロ情報はピンポイントの時限性が重要で、この警告では「3月7日から48時間以内」となっている。この警告は“空振り”に終わり、期限を10日以上過ぎてから別の話として今回のテロが起きたということだ。