疑惑の「痛風発言」

 表立った二人の確執報道が出ないまま、1984年シーズンの6月以降、江夏の登板数が突然減ったのは“痛風発言”がもっぱらの評判だった。遠征先でのホテルの食堂で「監督、(選手に)玄米や豆乳を勧めているのになんで痛風なの?」と江夏が広岡に問い詰めたのだ。この辺りも広岡に聞いてみた。

「江夏に痛風のことを言われたけど、それと登板数は関係ない。痛風のことはいろんな人から陰口を言われたよ」

 広岡は、痛風発言と江夏の登板数との起因関係を断固否定した。ただ、最後にこう付け加えた。

「あれほどの才能を持ったやつなのに……。指揮官がもっとまともだったら違った人生を歩んだはず。今思えば、わかりやすく言うことも必要だった」

 広岡は、野球に関する姿勢や技術面など自分のお眼鏡に叶わないと強く否定する傾向があるが、むやみやたらに不条理な人格否定はしない。超一流の江夏に嫉妬を抱かずとも、溢れる才能に対しては憧憬の念があったに違いない。

 だからこそ、他の選手以上に自分の手で再生させたかった強い思いがあり、対話が必要だと感じたのだ。その後、1995年ロッテのGMに就任してから、伊良部秀輝や小宮山悟への対応が寛大で周囲をびっくりさせたという。

◆取材・文/松永多佳倫(まつなが・たかりん)

ノンフィクション作家。1968年、岐阜県生まれ。琉球大学卒業後、出版社勤務を経て執筆活動開始。著書に『善と悪 江夏豊ラストメッセージ』(KADOKAWA刊)など。

 

 

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